sleep.06

□欲情メランコリニスタ
1ページ/1ページ



「もしも私とアンタがアダムとイヴだったらさ、きっと人間なんて繁殖してなかったと思うんだよねぇ」

見終わった映画のエンドロールから目を離さないまま彼女が言う。
先程からやけに大人しいと思えば、何だそんな馬鹿な事を考えていたのか。
相変わらずのマイペースに呆れを隠すことなく、別にどうでも良いじゃねぇかと吐き捨ててやる俺。
彼氏というより気持ちは保護者。


「アダムとイヴね…」

しかしこれはもしもの話。
本物や真実とは逆の、どちらかと言えば虚構に近い。フィクション。
つまり、あり得もしない話なんかは現在主義の俺にとってどうでも良いわけで。
でも楽園に二人きりだなんて最高じゃねーかとか思ってしまう自分もいる。これはどうだ。
単純かつロマンチスト。

「…馬鹿か」

「何を!」

要するに大事なのは今なのだ。と、諭す。
こいつはまだそれを解っていない。大事なのは今、俺といる貴重なこの時間なのだというのが何故解らない。

「三井のくせに私にお説教なんかしないでよ」

「違うの、俺だからすんの」

「あーあ今度は彼氏気取りか、いい加減にしろ」

「そうだな。でも俺はお前の彼氏なんだよ残念でした、お前の方がいい加減にしろ」

ムッとなる彼女の頬を指先でつつく。
ふと薫る幸せ。この上ないのでドキリとしてしまう。
突っ掛かれば反応は可愛いものなので他を何も言わないでおくのは、悲しいかな男の性かもしれない。


「で、繁殖しねぇってのはどういう意味だ」

ヤりたくねーのか?と聞いてしまうのもまた悲しき男の性なのだと思う。
真面目な顔付きを作りつつも頭の中はベッドの中の一部始終でいっぱいなのだ。
情けなく。変態、というかむしろ病気に近い。


「だってさ、三井も私もリンゴ食べちゃいそうだから」

「…リンゴ?」

「そう。そしたら二人とも男になっちゃうでしょ」

ほら、ここ。
伸びた細い指が喉仏を滑るように触れる。
ぞくり。背に電流が走り抜く。
しびれるような甘い感覚がもどかしくて目を瞑ると何を勘違いしたのかキスを落とされた。
残念なのは場所が瞼だったこと。


「…普通そういうの口にやらね?」

「恋愛な普通なんてものはないのですよ三井くん!」

ゴロゴロと腕の中で寝返りを繰り返す。
無意識に小さな頭を撫でてやる手には多額の恥と少しの安堵感を感じる。
俺って父性本能強いのかも。


「俺、お前とならアダムとイヴでも良いぞ。別に」

「……その続きは聞かないよ。解るから」

「ヒント1、真っ裸」

「だから言うなって!」

取り敢えずベッドに行かないかと誘えば何だかんだで必ず付いてくる彼女。
この手懐けた喜びは何ものにも変えがたい。



まさかこんなにも愛しいものだとは、


(090407)
にやけた顔で、俺からキスを捧げてやろうか。

★リクエストありがとうございました。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ