sleep.06
□まどろみの果て
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薄明かりの中をゆらゆらと揺れる影。
世界がモノクロに見えるので、まるで幻想的な光景だなぁ、などと布団から半身を起こしかけてそれを眺めていた。思考はどことなくぼんやりしている。
「起こしたか」
「ううん、何だか少し眠れないだけ」
今夜は妙に眠りが浅い。枕元に置かれた時計に目を凝らせば先ほど見た時間より一時間しか経っていなかった。
寝なければ。明日もまた早いのだ。そうだ、戦も始まるし。怪我人だってそれはそれはたくさん出る。
それから、戻らない仲間はどれくらい出るのだろう。今は気持ち良さそうな寝息を立てているであろう彼等の中のどれ程が、もう此処には戻らずに。
寝起きで擦った目の所為か、戦に対する憎悪と悲観の所為か。じわり、視界がぼやけてゆく。
「もう寝なよ、明日は早いんでしょう」
戦だし、という言葉は喉を通り過ぎる寸前で臆病風に吹かれたらしく。言えなかった。
ただ、少しばかり震えを隠しきれなかった声に何も言わず聞こえずの態度を押し通す彼の気遣いはありがたい。
ありがとう。いくら心の中で言った所で伝わりはしないのだけれど。
「その言葉、そっくりそのままお返しするぜ」
眠らなくてはならないのも眠れないのも、お互い様だろう。ニヤリ、不敵に笑うのがいつもの彼なのだが薄暗さと逆光が作用して彼の表情がよく見えない。
代わりに聞こえた声色は優しく響いたように聞こえたと思うのだ。少なくとも今までのどんな夜よりも。
その理由が私と同じそれならば彼もいくらかは人間染みた部分もあるということになるが。もはや戦に依存しつつある彼に期待をかけるのもどうなのか。
「なれる事ならば、お前と一緒になりたかったんだがなぁ…」
否、元より人間染みていたのは私よりも彼の方だったようだ。狂気についても憑かれた振りをしていただけあって。
だってあの彼が私を目の前に泣くなんて、あり得ないことだ。
まだ夢の中にいるような、ふわふわと世界が浮いている感覚。言い換えればリアリティがない。
かといって、まるで夢みたい!と漫画やドラマさながらに不器用なプロポーズを喜ぶべき場面でもない。
「幸せにしてやれなくてごめんな」
「晋助が謝らなくても良いのに」
「愛させてくれてありがとう…とか、言ってみたり…」
「照れるな照れるな」
だけど耳を赤らめてはにかむ彼を見るのはこれが最初で最後になるのだろう。だなんて。
後にも先にも。いや、先なんてもう二度とやって来ないのかもしれないけれど。
「せめてお前だけでも、と思ったんだよ」
「うん、ありがとう」
(090516)
あの時、妥当な受け答えが出来なかった私はまだ子どもだったのだ。
大人でなくてはならなかったあの瞬間に。
(見栄を張ることに夢中になり置いていかないでと言えなかったあの日の自分を悔やむ。呪うほど。)
※捏造、攘夷時代。