sleep.06
□君とならばそこまでは行ける
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ロミオとジュリエット。黙ったまま動かないそいつの視線を独占している本を覗き見ると表記されていた文字。
認められない男女仲の苦悩を描いた作品?馬鹿げている。
認められないならば男は女を連れて逃げれば良いだけの話だ。国外でも山中でも安住が可能な地へ。
しかしそういったお涙頂戴が美しいとされた時代があったのも確かだ、と思う。近いところで言えば大正ロマンといったものだったろうか。
それよりも折角の非番なのだ。久しぶりに二人の時間を過ごしたい。視線だってそんな陰気臭い本ではなく俺に向けてこそ。
「心中なんて暗い話、何処が良いんだ」
「解ってないなぁトシは」
別に解らなくても良いのだが。
しかし言われれば悔しくなるものだ。身体に根付く負けず嫌いな性質は自負している。
「お前、好きな奴と一緒に死にたいと思うか?」
「ん、本望」
「…馬鹿だな」
「どうして?そうすれば誰も二人の間を引き裂くことは不可能じゃない」
ふふっと綺麗な笑顔。
なるほど永遠に引き裂かれぬ方法とは。考えたものだな人間も。
確かにある意味、美学。なのだろう。
しかし俺にはやはり理解がし難い。
だから、トシもミツバさんと死ねば良かったじゃないの。言われるかと思った。
こいつにそんな大それたことが言えるわけがないと解っていながら。
まだ俺は恐れているのか。周りはもう受け止めたというのに。
「じゃあ死ぬか」
「え、」
「死んでやっても悪くないぞ、お前となら」
「え…、え?」
熱でも出たのかと額に手をあてがわれた。しかし生憎の平熱。
異常はない。手を退けて煙草に火を着けると手早く阻止された。そういえばこいつの部屋は禁煙地帯だった。
「…死ぬ理由は?」
「は?」
「私達はちゃんと周りにも認められてるよ、死ぬ理由なんて、ない」
「総悟にもか」
「いやあれは別だけど」
揺れる煙にまた手が伸ばされた。
思い過ごしか涙目。
「さて、腹を切る刀でも持って来るんだな」
「ごめん。一緒になんて言わないから」
(090520)
心中なんて実にエゴ。