sleep.07

□純白アルビオン
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愛が在りさえすれば全てが上手くいくなんて。信じきっちゃいなかったけれど何処かで信じたいと願っていたのは、私がそういった年頃だったからなのかもしれない。罪と言えるくらいには浅はかだと思う。しかしそれ故に美しいとさえ思えた。
この若い思考もいつかは浅はかさを連れ立って消えてなくなるのだろうか。考えれば何だか自分を捨てるようで、少し切なくなった。


「花井くんのことが、好きかもしれない」

「……は?」

「授業中とかずっと気になっちゃって集中できないし、花井くんといるとすっごく胸がドキドキするの」

「、あ…、その…(不意打ちだろ!)」


良かったら私と付き合ってください。選挙運動最中の政治家さながらにお辞儀の姿勢で右手を差し出す。返事の代わりに返されたのは左手を出したり引っ込めたりの忙しない繰り返しと、わたわたと効果音まで付きそうなほどの狼狽え。
案の定というべきか突然こういう雰囲気に持ち込まれると何も言えなくなるのは彼の弱い所なのだ。
浮かれるなと叱咤を飛ばすこともなければ知っていた振りも見受けられない。ただ目を丸く見開いてフリーズの状態を保つばかりである。少し意外性を突きすぎたのか、反応も全てが鈍いような。


「聞いてる?」

「あ、あぁ…」

「本気なのにスルーとか傷付くからやめてよね」

「わか、ってる!」


だ、だけど……、詰まった言葉は否定から始まったので失恋ばかりが懸念された。色恋沙汰よりかはまだ野球に時間も気力も注ぎたいということか、高校生で野球男児と来れば無理もない。が、そういうことはそれこそしっかりと解っていたつもりだったのに。
やってしまった。些かどころか多いに先走った感が否めないので聞こえない程度の小ささで舌を打つ。無論、その矛先は自身以外の何者でもないわけであるが。


「幸せにするって約束するから、ね?」

「バカ、それは俺の台…詞……あ」


慌てて口元を押さえる彼は再びフリーズの状態に陥ってしまったが今度ばかりは事情が360度ほどには違っていた。形勢逆転。逆転ホームラン。更に言うなれば絶望の淵から楽園へようこそ、と言ったところか。顔に帯びる赤さの理由だって同じくらいに甘いものなのだ。


「両想いだ!」

「わ、解ったからやめろ恥ずかしい」

「嬉しいなぁ嬉しいなぁ」

「……そんなの俺だって、」

「ん?」

「…いや、なんでもねー!」


上手くもない作り笑いで誤魔化したつもりが実はバレていると、気付いていない彼はきっとこれからも愛しい。


(090522)
リクエスト+6萬打記念。
おめでとう。ありがとう。


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