sleep.07

□追悼ブルースカイ
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きれいサッパリ消えてしまえるのなら、それはそれで構わないと思う。
幼い頃に読んだ人魚姫は泡となって消え失せたにも関わらず、悲恋という美しさをしっかりと私に植え付けていったのだ。
それは見事なまでの洗脳っぷり。と言っても私がまだ何にも染まっていなかった年頃だったから成せたことなのだと、今となっては冷静に思える。(今はこんなにも真っ黒く染まってしまったのに、)


相変わらず繰り返される終わりのない電子音にはうんざりした。
繋がらないということは、つまり…、嫌な予感だけが心を掻き乱してゆく。


(プー、プー、プー…)

戻ってくると彼は確かに言っていた。し、それは嘘だとも思えないほど自然な口調だった。
嘘や冗談の類いはあまり好きではないと一人ごちてみたところで所詮は独り言でしかないのだ。隣にいつもの銀髪が見えない。
彼が帰らないという現状がただただ寂しいばかりである。







「ボス」

声を掛けると返事もなく、おまけに振り向きもしないので、まぁいつものように無表情なのだろうと決めつけた。
吹き抜けの庭がざわざわと音を立てて荒くなりつつある呼吸を掻き消す。

「、ボス」

「何だ」

しかし今回ばかりはこちらも不安定でならないので再度声を掛けてみる。
やはり振り向きはしないものの察するように優しく聞こえる(きっと空耳だろうけれど、)返事が素直に嬉しいと思えた。

「スクアーロは何処に行ったんですか」

「…あー」

問いかけに応じるかのように切れ長なつり目が空を見上げた。
そんな所にスクアーロはいませんよ、とはためく服の裾を引っ張る。どうだかな…、とはどういう意味だろうか。今の私にはまだ解らないようだ。


「、ボス…?」

ざわりと葉を揺らす音が胸の奥から聞こえる気がした。違和感、言うなればそれに当てはまる表現だ。
ざわざわざわざわ…。



「(あ…、)」


そういえば気付いたことが二つ。


「泣かないで下さい」

「ばぁか、雨だ」

彼の足元に染み込む水滴幾分と、皮肉なまでにからりと晴れ渡った真っ青な空。


(090610)
誰もが覚悟なんて出来ないまま、追悼。


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