sleep.07

□金塊
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今朝、仲間内で飼っていた柴犬が犬小屋の中で冷たくなって死んでいた。
毎朝の日課となって用意をしていた餌は役目を果たすことが出来ないまま。即席で掘った質素な墓に冷たい身体を飾るようにして埋められた。
手を合わせてみても届ける祈りの言葉が見当たらないので意味がない。
報われた一生だったかどうかは私が判断することではないが、そうであれば良いとは思った。
せめて、ありがとうの一言でも伝えられていたならば。何かが変わったのだろうか。もしかしたら。ひょっとしたら、死なずに。
けれどもそれはあまりにも都合の良すぎる思考だ。


いつだってそう。私は受け止めることに躊躇してしまう。
現実をきちんと見据えて先へと進んでゆく仲間は背中しか向けてはくれない。
置いて行かれることに不安がある私はそれに気付く度に汗や泥にまみれながら必死になる。追い付こうと無理をする。
世の中の汚い部分を見れば成長できると大きな誤解を本気で信じていた時期もあった。
積極的に戦地に赴いて。だから人並み以上には人の命が散ってゆく瞬間を目にした回数は多い。


「銀時…」

「あーはいはい解ってるよ」

ろくに言葉に耳を傾けようともせず、適当に私をあしらって今日も小さく背中が戦地へと遠ざかってゆく。
行かないで、行かないで、死なないで。
泣きたい気持ちは感じるばかりで実際に泣けはしないのだけれど。悲観と違うのだったらこの感情は何なのだろうか?
あぁ、そういえば良くないことには良くないことが重なると聞くではないか。悲観的思考。

「銀……」

ただただぽつりと暗闇に揺らめく白は遠くにいてもよく映える。



「あ、」

「?」

ふと、振り返った背中は駆け戻って笑顔を弾く。

「言い忘れた」

「何を、」

「晩飯は豚カツな」

「……何でいま?」

戦争と似付かないのは発言共々に。
背後で同じように見送りに出ていた高杉ですらこれには吹き出さずにいられなかったらしい。うっかりと少年の面をチラつかせながら腹を抱える姿は貴重だ。
あぁ、広がる笑顔にこれら全てが場違いでなければどんなに幸せなことか。


行ってきます、と一度だけ身体を抱き寄せてから彼は本当に行ってしまった。
小さく小さく。遠ざかる白、もとい銀色。

「あいつなら、大丈夫だろ」

「…」

「斬られたってそう簡単にくたばりはしねぇよ」

「そう、かなぁ」

命はいつも儚い。それでいて美しさが紙一重に添う。
それは何よりも戦場に立つ私達が一番よく知っていることだ。

「俺等がそれを信じないでどーすんだよ」

「、そっかぁ」


だけど流れてしまう涙は、どうして。



山ほどの金塊なんか要らないから、どうか、彼を。
(090622)


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