sleep.07
□面を食らわば
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ゆっくりとした歩調で隣を歩く彼女を横目に、つい浮かない顔で深々と溜め息を吐いてしまう。
今月に入って何度目のことか。
数える気すら滅入る回数に、また、息を吐く。
念のために脚注をしておくが決して彼女が悪いわけではない。
悪いわけではないけれども……、
対象となるのはやはり彼女なのだからあぁ何とも複雑な話だ。
「もしかしてさー嫌なことでもあった?」
「……どうして」
「いや、最近の雲水はあんまり笑わないなーって」
「そう…か?」
「それにさっきからずっと溜め息ばっかり」
「(…ぐ、!)」
何も言い返せなかったことを良いことに、邪魔や重荷になってしまってはいないかなどと彼女の思考がネガティブに向かって突っ走ってゆく。
良い傾向とは言い難い反応は苦笑しかもたらさないので、大丈夫だ、と笑い返したはずの表情も何処となくひきつってしまっていた。
かもしれない。
事実、心境は全然大丈夫なんかじゃあないのだ。
考えれば考えるほどに寝付きは悪くなってゆく一方でもあるし。
話にこそ聞いてはいたが。まさかここまで緊張するとは。
「悩み事があるのなら話くらいは聞くからね!」
「あぁ、助かるよ」
でも、本当に大丈夫だから。心配をかけてしまって済まなかった。
そう言ってみるものの、まだ、変わらずに心配そうに見つめてくる目には耐えられない何かが潜んでいるようだ。
思わず目を逸らす。
それにしても本人よりも困った表情になってしまうなんて。俺の言えたことではないかもしれないが彼女もかなりのお人好しと見える。
私で良ければ、と。付け足された言葉は今こうして頭を悩ませる問題にこそ。
しかしそう上手くいかないのが現実だ。昔から嫌というほど見せられてきたおかげで怯みはしないだけであって。
少なくともダメージはある。
付け加えるのなら今までになく深々と。
「しっかりしてない雲水だって私は好きだよ」
「…そりゃあ、」
また唐突な。
「愛してるの」
だからってそんな、いきなり、
「え、と……だなぁ」
煮え切らない返事に堪え切れなくなったのか胸に飛び込む彼女。
刹那、奪われる唇にそれはこちらの役割では!?などと抗議の声を出す。
それにしたってこれはただの狼狽でしかないので余裕がない。情けない。
「彼女以上になりたいって言ったら、どう思う?」
「それはつまり…」
「結婚、して下さい」
「……お前なぁ」
もたもたしているうちに大事な場面を先越されてしまったようだ。
それもごく普通にあっさりと。
格好が付かないと嘆くにしろ、自身よりも男前な彼女に不覚にも一瞬ときめいてしまった時点で格好も何もあったものじゃあ……。
「幸せにするって約束するから」
「…その台詞くらいは俺に言わせて欲しかったな」
(090624)
それでもきっと未来は変わらずに待ち構えるのだろう。
眩い程の明るさを増して。