sleep.07

□背中
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それはもう潔いまでに、無神経を通り越して横暴だとさえ言えようか。
引かれた腕は抵抗をしていないにも関わらず鬱血の痕をくっきりと残す。痛々しく紫色に現れる手形は言うまでもなく彼のものだった。


「あのさ中村くん」

「その呼び方は気に入らんと言うとるじゃろうが」

うっかりと滑らせた発言は彼の機嫌を悪くさせてしまったようだ。
むっと眉間に皺を寄せたまま、解放されたばかりの腕を掴んで再び歩きだす。
行く先は解らない。

「、痛いよ」

「構うな。気の所為じゃけえ」

つん、と前を向いたままの応答は今に始まったことじゃあないが。
ただ、先程よりも歩調が足早になっていることは定かだ。

構うなと言われても痛いものは痛いんだ!
言い返そうと見上げた目は込み上げる痛覚に涙目であるが、彼が後ろを振り向かないままなので伝わらない。
こんなにもゴーイングマイウェイなのにも関わらず人を惹き寄せる魅力があるのは何故だろう。
何処に問いてみようにも、どうやらその答えは既に私の中にあるようだ。
そうだ、嫌になったのなら勝手に離れてゆけば良かったのに。


「中村くんなんか、キライだ…」

「知っちょる」

「もう絶交だからね、謝ってもしらないからね」

「何じゃ、わし等いつの間に友達になっちょったんかのお」

こ い つ め!

ニヤリと口角を上げた表情でこちりを見る視線。どうにも私をからかって楽しんでいるらしいので腹が立つ。
おかげで触れられた腕は心音を高める役割は果たしているものの、本来ならば帯びてゆくはずの熱をあろうことか奪っていってしまう。
これが恋人のそれのように手でも繋いでいる形だったならば話は別だったかもしれないのだけれど。
なんて、そう思ったところで彼とそういった雰囲気になることなどはまずないだろう。
先入してゆくのは否定ばかり。


「……あ、」

「今度は何じゃ」

隣から聞こえる呆れた声は無視をする方向で、嫌な痛みが走って下を見ればズルリと剥けた踵が赤い血液で濡れていた。
歩幅の差を考えないペースにとうとう足が悲鳴を上げ出したのだ。
こんな時に限って履き慣れない靴だったのもいけない。
あーあ白いパンプスが台無しだ、お気に入りだったのに。

「…痛むかのお」

「は?いやいや見て解らない?痛そうじゃない?」

深刻そうな表情で流れ出る赤を眺める彼は、本気で自分の非に気付いてはいないようなので正直に言えば面倒だと思う。
というか生足なのでそんなにジロジロ見ないで欲しいというか……その…、いや照れてるとかそんなんじゃあないけども…。

「歩けんか?」

「何その優しい口調は」

「いや、歩けんようじゃったらおぶっちゃろうかと思うて」

「、余計なお世話!」

憎らしくも口角はまたしても上へ。
返事なんか無視して差し出された背中がやけに広くてドキドキしただなんて、まさか!



どうぞ背中に君の全てをお預けください。
(090701)


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