「どうぞ」
「…かたじけない」
湯気を立てた湯呑みが机に置かれる。二人分だ。
生憎お菓子までは出せなかったのだが。と言うのもこれが想定外の事態だからである。
帰宅して来た私を玄関で母がいらっしゃいと迎えた。これはおかしい。思わず振り返ると背後には無表情な彼。かと言って一緒に帰って来た覚えはないのだが何分彼には気配がないので、覚えがないのは私だけかもしれないと申し訳なくなり部屋へと促したのだ。
そして冒頭。現在に至る。(つまり制服姿の学生男女が向かい合ってお茶を啜るというまるで奇妙な光景が一室に広がっているわけだ。)
「ス、ストーカーかと…」
「違う」
あぁごめん解ってるよ。だけどこういう事は誤解を招き易い。ましてそのような性格は誤解されやすいんだから自覚しなきゃあいけないじゃないか。
気分はまるで世話を焼く母親のよう。だとすればひとつひとつの注意にいちいち頷きを返す彼は感情表現に問題はあるものの実に出来た息子なのだろう。
「…かたじけない」
「ううん全然」
にこりと笑ってお茶を飲み干す。
かたじけない。彼がまた呟いた。
(080102)