放課後の屋上に人影が一つ。確信めいたものはないがあれは確かクラスメートの。
気になって全速力で屋上まで階段を駆け上がって鍵の掛かっていないドアを開く。やはり彼女が立っていた。
しかし予想外なのは彼女がフェンスの向こう側にいる事だ。どう考えてもこれは、
「お、おい!」
止めに行こうと一歩踏み出してようやく気付く。俺は彼女の名前を覚えていない。
とは言うものの名前がどうこう言っている状況ではない事は明らかである。
フェンス内に細い身体を引きずり込み、この野郎と怒鳴ってみた。野郎ではないと言われた。彼女は冷静だ。
「あーあ十文字くんにバレるなんて」
「残念だったな」
「本当にね、見逃してもくれなそうだし」
「当たり前だ」
いつ飛んでしまうかも解らないので彼女の手を離せない。目を離せば今すぐにだって。
「送ってやるから、帰るぞ」
「…うん」
小さな手に力がこもる。離したくないと思ってしまった。名前だって知らないのに。
(071211)