sleep.02

□痛みに伴う愛を少し
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感情に飲まれてしまいそうになって伸ばした手は理性を求めてさ迷っている。いつからこんな事になったのか。全く検討違いも良い所だなぁ。
ぼんやりとした頭で彼を見上げてそっと手を繋ぐ。黒い瞳が私を捉える。強い。

ただ一緒に居られるだけが幸せであると思っていた。そういう時期もあった。少しばかり昔の話だが。
懐かしい思い出に目を閉じてみる。眠くなったわけではない。どうしたんだと彼が髪を撫でると覆い被さる身体からポタリと胸に垂れ落ちる汗が。温度はない。

「何か、気持ち良すぎた」

「…そうか」

耳に指を突き入れるその癖すら今は格段と卑らしい。無論照れ隠しである事は承知しているのだが、意思とは裏腹にゴクリと鳴る喉に自嘲の念が込み上げた。
同時に、彼の視線がこちらに移り徐々に下がっていくので少しだけ身体が強張る。そういう意味でも彼も男だったのだ。今までになく目が猛っているのだってきっと。
それでも、今更になって怖くなったと言えば押さえ付けられた手も離して貰える気がする。自信がある。根拠は彼であるからだ。

「出来るだけ痛くしねぇようにする」

「うん」

「痛かったら手を挙げろよ」

「歯医者みたい」

ふふっと笑い声を漏らすと彼のその老け顔も笑みを浮かべた。優しい、何処までも。つくづく私には勿体無いとばかり泣き言が零れる。

馬鹿を言うな。

その度に返る言葉すら勿体無いのに。だからこそこんなにも苦しくて堪らない。無論、幸せである事に変わりはないけれど。

「俺は、そんなに優しくはねぇ」

「…ん」

薄笑って身体に舌が這い出した。ビリリと背中に電流が走るような感覚が流れて身体が足の先までじんわりと熱が広がる。

「む、さし」

「任せろ」

このまま私の中に彼が溶けてしまえば良いのに。叶う事ならばと願ってしまうのに。





(080119)
それは全て解らなくても良い事。
5000打感謝。


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