sleep.02

□バルカローラ
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何も見えなくなれば良い。彼の顔だっていつか忘れるのだから。


「一緒に来ないのか」

「うん」

「無理をしては身体に毒だぞ」

「何ていうか、大丈夫な気がするから」

「…そうか」

安心した顔で遠ざかる三本髷が見えなくなるまで手を振った。あの優しい声はもう聞こえないのだと思うとやはり寂しい。
しかしながら彼ほど寂しさを残していくようではなかったので我慢は出来る。この程度ならば。

寂しさを紛らわせようと口ずさんだ突発的な唄の歌詞を知らない。溢れる感情が喜怒哀楽のいずれに当てはまるのかを知らない。いなくなった彼の行き先も解らない。
それならば悲しみは此処に捨てて行こうと思う。笑顔だけは覚えておいて損はないはずだ。(そういえば彼はそれが何よりも苦手だったなぁ。)

それでも変わらずに。雲は彼を失ってもなお世界を何処までも流れていくので、辿れば彼に会えれば良いのにと思った。
重い腰を上げる。墓前に置かれた最期の花が風に吹かれて優しく揺れた。

赤い、椿が。



(080124)
サヨナラ、来世でまた会おう!
そう笑った私はあの頃よりも強い。


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