sleep.02

□最後にレモンティー
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「…別れようか」

静かだ。彼女がレモンティーを啜る他には何もない。
日常の風景と化しているそれと、非日常的な吐かれた言葉。躊躇いも動揺もなく。至って何食わぬ顔でさらりと呟かれた。思わず聞き間違えたのではないかと自分を疑いぱちぱちと瞬く。二回。
だが聞き返しはしない。そうだこれは聞き間違えなどではない。捏造でこんな馬鹿な考えを起こすはずがないのだ、この俺が。部員の中でもまだまともな頭の所持者である事も自負している。

「…い、意味が、解んねぇんだけど」

とにかく訳の解らなさに堪らず真面目な顔を向き合わせてやるが返されたのは笑顔。しかも何故かそれが困ったような苦笑であったので、困っているのはむしろこちらの方だと叫んでやった。内心で。
しかしそのような心の叫びが当たり前にも相手に聞こえるはずもなく。悩ましげに溜め息まで吐かれた時はどうするかと大いに悩まされた(が、彼女はそれにすら気付いてはいないようである)。

「私達もう別れよう」

「いや…だから」

自分の、たかだか十六年に過ぎない短い人生にこれ程までに困惑した事があっただろうか。ここまでの酷さはどうだ。今まで出会った中でもこれ程までに強烈な、そして一方的な仕打ちには他に髄を見た覚えがない。かわし方や応対の仕方なども解らずただただ頭が痛い。
こういう場合に参考になるのだとすれば、あの60ヤードマグナムな老け顔キッカーか対照的に自他共に認めるバカ紳士かなのだろうが生憎ここにはそのどちらもいないのだ。百歩譲っていつも連んでいる気の知れた二人にも縋ってしまいたくもなったが、皮肉な事にそれすらいないのだからもう泣きたい帰りたい。

「あー…」

かと言って言葉に詰まれば不思議そうな顔でこちらを見つめて来るのだから元々逃げ場なんてあったもんじゃないらしい。何を言ってもこうなのか。

「でも、じゅう君の事好きなのは本当だったよ」

「な…っ!」

口にするには野暮であるのだが。ごもっている間に反論するタイミングすら逃したのは。果たして妥当であったのだろうか。





(080202)
それ以前にまだ付き合ってもないはずなのだが。
6000打感謝!


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