夢現
□あわいろ真紅
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春の風吹くまだ肌寒い朝
気の早い桜の花がちらほら、それでも誇らしげに咲き誇っている。
そんな桜の木に2匹の小鳥が舞い降り朝の挨拶でもするようにさえずっていた。
「よっと…」
オレ、<浅野 紅─アサノ コウ─>(16歳)は2階建ての実家で忙しなく動き回っていた。
2階にある自分の部屋から玄関へ大小様々な段ボールを運び出す、という作業の真っ最中。
玄関に段ボールを置いては、また部屋に取りに行くを繰り返す。
いくら距離が近いといっても、何往復もしなきゃいけないとなるとかなりつらい…。
「ふぅ…これで全部かな。」
何個目かの段ボールを運び終えてオレは一つ息を吐いた。
休むコトなく作業を続けていたから腰がかなり痛い。
気休めに叩いたり伸ばしたりしてみたけど、あんまり意味はなかったみたいだ。
それでも重い段ボールを運び終えたという解放感がそんな痛みを和らげてくれる。
そこへ………
「おーい。紅、朝メシ………って何だコリャι」
「あ、藤兄。朝ごはん?今行く〜。」
浅野家の愛猫(アイドル)「あくび」♀を両手で抱えながら優しい低い声の男が話し掛けて来た。
このやたらと背が高い男はオレの8歳年上の兄貴<浅野 藤―アサノ フジ―>
浅野家3人兄弟の長男。
オレを朝ごはんに呼びに来てくれたみたいだけど
藤兄の意識は“朝メシ”から目の前に積まれた“段ボール”に移ってしまったみたいだった。
良い匂いすると思ってたんだよな〜。
その時オレのお腹が耐え切れないとばかりに鳴いた。
それもそのハズ。早起きして一時も休まず動き回ってたんだから。
ルンルンで藤兄の横を通り過ぎようとした時
ガシッ
と藤兄に頭を掴まれてしまった。
ちょっと…痛いんだけど。。。
それにしても藤兄手デカイなぁ。
「ちょーーーっと待て、紅。この段ボールの山は何だ?お兄ちゃんにわかりやすーーーく教えてくれるかな?」
「え?何って…オレが昨日からせっせと作業して出来た荷造りの結晶達だけど。」
藤兄が激しく黒いオーラを放ってたなんて気づかなくてオレは
“何でそんな事聞くんだ?”なんて思いつつシレッと答えてしまった。
だって藤兄顔笑ってんだもん、わかんないよ。
「あれ?紅くーん。お兄ちゃん言わなかったっけ?
紅君の高校の寮生活で必要な荷物を学校の寮まで車で運んであげるのは良いけど、最低でも4箱に納めろって・・・」
「あっ」
思わず声が出てしまった。
そういえば、そんな事を言われていたような…いないような…。
ィヤ………言ってたな。今ハッキリと思い出しました。
オレはつくろうようにニコリと笑って
「・・・言った・・・・・カナ?」
ポツリと答えた。
「ぢゃあ、何でこうなる!?何で玄関にピラミッドができる!?何でドアが見えない!?」
「ふ・・・藤兄、おひふひへ(落ち着いて)ι」
藤兄は眉間に皺をよせてオレのほっぺをつねりながら怒っている。
年のわりに小柄なオレと違って、藤兄は長身でスラッとしてるから
藤兄と会話する時、オレは必然的に見上げる形になってしまう。
「それにしてもこんなに・・・ι一体何入ってんだ?」
そう言って藤兄は山積みにされた段ボールの1つに手をかけガムテープをはがし、中を覗いた。