小説

□宣戦布告
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 食い入るような目線に耐えかねて、とうとう土方は刀を手入れする手を止めた。

「何が言いたい総悟」

「別に」

 口では否定するくせに、沖田の紅い双眸は片時も土方から離れない。

「じっと見られてるとこっちも気持ち悪ィんだよ。
 何か話があんだろ」

「なにもありやせん。
 ただ見てるだけ」

「・・・おまえ、最近変だぞ。いつもに増して悪ふざけが激しい、かと思えば何時間も空を見て溜め息ついてるし。
 なんか悩みでもあんの?」

 土方が真剣に問い掛けて、ようやく沖田が視線を逸らす。

「ありやせん。
 あったとしてもアンタなんかに云わねー」

 生意気な沖田の口調にもいつもの覇気が感じられない。
 正直に言うとは思っていなかった土方は別の方向から攻めてみる。

「あっそ。
 なら、近藤さんに聞いてみるか。『総悟が最近変なんだが、どう思う』って・・・」

「近藤さんの手を煩わせることじゃありやせん!!」

「じゃあ、言えよ。
 何をそんなに悩んでるんだ?」

 にやりと笑った土方に沖田は唇を噛む。

 しかし、土方が諦める気がないと悟ったのか、嫌々ながら口を開いた。

「・・・気になって仕方ないんです。いつからか分からねぇけど、気付いたらずっと目で追ってて、寝るときとか見回りしてる時とかふとした瞬間に思い出して・・・」

「・・・は?」

 真剣に話しだす沖田とは対照的に、土方は間の抜けたような顔をした。

「最近では夢にまで見るようになって・・・」

「ちょ、まてよ。念のため聞くが、ソレは刀とかワラ人形とか悪戯とかそーゆーのじゃなく。
 ある一定の、誰かの話だよな?」

 首肯した総悟を見て、土方は何だか淋しいような嬉しいような得体の知れない感慨を持った。

「・・・。他にどんなこと思う」

「・・・近付きてぇ。だけど俺が手を伸ばす程、距離が離れていく気がして、イライラして、でも俺以外のヤツと一緒にいるのを見るほうがずっと嫌で、嫌われたらどうしようって考えて泣きそうになって、朝飯食えなくて」

 まだまだガキと思っていた少年の、ソレは。

「そりゃオメー、ソイツに惚れてンだろ」

 土方が指摘してやると、無自覚に恋をしていた沖田は目を見開いて完全停止した。

「惚れ、て・・・?
 んな、馬鹿なこと・・」

「馬鹿も何も・・・。
 どうしようもないほど、ソイツが気になって仕方ないんだろ。
 夢にまで見るようになって、飯も喉を通らない。

 恋の病ってやつか」

 剣一筋で、色事何ぞに興味があるように思わなかったが。
 まぁ悪いことじゃない。
 一抹の寂しさを覚えながら土方は沖田に尋ねる。

「で、ソイツはなんて女だ?ドコまでいった?」

「〜〜〜〜」

 自分の感情を認め切れずにパニックを起こした総悟は口をパクパクさせながら左右に頭を高速移動させている。

 ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない!!

「おーい、総悟。
 戻ってこーい」

 蜂蜜色の頭を両手で引っ掴んで動きを止めさせると、現実に戻ってきたらしい総悟と眼があった。

 血走ったような眼が、ちょっとコワイ。

「傍に居たいとかイライラするってことァ、万屋のトコのチャイナ娘か?おまえらいっつも喧嘩ばかりしてるし。ダメだぞ、意地悪して気を引こうなんざガキの・・・」

 年上らしくレクチャーしてやろうとすると、拳が飛んできた。

「危なッ!なにしやが」

「女じゃありやせん」

「は?いや、あの娘は確かにまだまだ子供だが・・・。」

「俺がいってんのは、男でさァ」

「!?」
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