小説

□恋し人(夏)
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 夏の深夜。
 天の川の、眩いほどの星のきらめきが地上に降り注いでいる。
 その一片が、薄く開いた障子の隙間から祝福を告げて、副長室にまで差し込んだ。
 しゃらしゃらと夜風に笹の葉と願いが揺れる、そんな夜。




 積みあがった書類の山を片しつつ、溜まった紫煙を左手で無意味に掻き回した。
 もう三日も寝ていないのだ。
 別に俺が仕事をサボっていたわけじゃあない。
 確かに書類整理は喧嘩ほど得意じゃないが、副長としてやるべきことはきっちりやっている。ただ、この間の作戦の事務処理が異常に膨大なのだ。
 書類の山の半分は、部下に対する監督不行き届きでお上へ提出する始末書。
 残りは、討ち入りで壊れた建物に関する賠償の手続きに関するもの。
 つまり。

「ほとんど総悟の所為じゃねぇか」

 思わず呻いて机上に潰れる。
 三日間寝ていない頭は限界を訴えていたが、視界に映る書類の山と迫る提出期限が即座に訴えを却下する。
 ずきずき痛む額に右手を当てたその瞬間、前触れもなく派手に障子が開け放たれた。
 天下の真撰組鬼副長執務室にそんな馬鹿な真似をする奴は一人しかいない。

「土方コノヤロー、邪魔するぜィ。あ、まだ起きてやがる」

 恐ろしく慣れたその気配、書類の山を見捨ててまで振り向く必要性を感じない。

「そーごクン、俺この三日間一睡もしてないんだけど。どっかの誰かさんが考えなしに壊しまくった損害の処理が終わってねぇんだ、邪魔するなら帰ェれ!」

 壁の如く聳え立つこの紙束が、コイツには見えていないのだろうか。

「うわぁ、誰でしょうねぇ、その馬鹿」

 キレイにすっとぼけ、ずかずかと部屋に入ってきた。

「おまえだっつーの!!」




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