小説
□フェザー
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懐かしい匂いがした。
暖かな何かに包まれていたおれは、子供のようにいつまでも微睡んでいたかったけれど、匂いの正体が気になった。
好奇心に負けて、瞼を上げる。
其処には端正な寝顔がドアップで存在していた。
「!!!」
心臓が、口から飛び出すかと思った。情けない悲鳴がでる前に口を右手でふさぐ。
何で土方さんが目の前に!
しかもこの人寝てるし!
訳が分からず周りを見渡す。
「・・・」
簡素な机に書類の山。畳に染み付いた匂いは土方さんがいつも吸っている煙草と同じ。
「そういえば、会いにきたんだっけ」
この前、大きな捕りものがあった。おれは現場に出て斬ってくるだけで終わりだけど、副長であるこの人は、残党の追討指揮やお上に対する報告書やら面倒事が沢山あって、連日徹夜で仕事をしてた。
忙しいのが分かっていたから、部屋にいって悪戯するのを控えた。
なのに仕事や見回りも重ならず、なかなか会えない。山崎から生きていることだけは聞いていたが、同じ屯所内に居るのに見えないことが、なぜか苛立たしくて。
思い切って、土方の部屋に乗り込んだ。
「・・・いねぇし」
今だに煙がたゆる部屋からは、ついさっきまで居た気配が残っている。
「なんでィ。土方のバカャロー!」
思いも行動もすれ違い。
畳に落ちた着流しに、顔を埋めて静かに泣いた。
そして、いつのまにか眠ってしまって。
・・・。
きっと、疲れて部屋に帰ってきたこの人は、俺を起こす気力もなく、畳に倒れて寝たんだろうな。
そう考えると、無下に叩き起こす気にも成れなくて、ゆっくり身を離そうとする。
「・・・」
動けない。
どうやら、土方の右腕がおれの腰をがっちり捕まえているようだ。
おまけにおれの頭の下にはあまり柔らかいとは言い難い筋肉の束らしき感触。
所謂、腕枕というものだ。
もちろん、普通に寝ていて出来る態勢ではないし、ご丁寧に黒い隊服まで上から掛けてある。
「うで・・・重いし、痺れんだろィ」
ごく自然に与えられる優しさを目の当りにして、不意に泣きたくなってしまう。
コレはおれが求めている感情じゃないのに。
この人が与えているのは、家族愛のようなものなのに。
抱き締められていると、錯覚してしまう。
少しは期待してもいいんじゃないかって、思ってしまう。