小説

□恋し人(オマケ)
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 昨晩は七夕だった。
 翌日は可愛くて可愛くて目に入れても痛くないほど大切な子どもが、元服を迎えるのだ。
 コレが飲まずに居られるか、いや居られまい(反語)。
 近藤は道場時代からの仲間とともに、前夜祭代わりのささやかな酒宴を開いていた。
 居ないのはまだ仕事が残っていると断った気真面目な土方のみ。
 飲んで酔っ払った近藤は、愛しの息子が飾り立てられた笹の葉をじっと見ていることに気が付いた。

「どうしたっ!何か願い事でもあるのかっ!!お父さんが何でもかなえてやるぞ!」

 酔った勢いで告げた言葉に、沖田は上気した顔を輝かせる。

「じゃあ、宇宙征服したいでさぁ!!」

 息子はゴリラの親に似ず、可愛らしい外見のドSだった。
 近藤は冷や汗を垂らして、

「そっ、それはちょっと困るかなぁ〜?」

「じゃ、副長の座を・・・」

「はっ、ははは。そっ総悟は強いから、そんなもの無くても十分だぞ!!」

 顔を引きつらせて笑う近藤に、総悟は珍しく顔を曇らせた。

「・・・だって、そうでもしないとアイツはおれに振り向いてくれないんでさぁ・・・」

 潤んだ瞳で頬を染め、近藤を見上げる沖田。
 珍しく酔っているのか、胸に秘めた本音を吐露する。

「おれ、他になんにもいらないから、土方さんがほしい・・・」

「!!」
 無表情だが、あまりにも可愛らしくいじましい少年に、周りの者は心を打たれた。
 たとえ普段は極悪非道で腹黒く手におえないS星の王子であったとしても、可愛らしく強請るその隣には鬼殺しと鬼嫁の空き瓶が大量に転がっていても、沖田は真撰組のアイドルであった。
 何としても願いを叶えてやりたいと思うのは可笑しい事ではあるまい。
 ただ、其処にいた全員が全員完全に酔っ払っていたこと、ソレが大問題だった。
 酔っ払い男衆の頭にはミジンコほどの理性もない。

「いやだー沖田さんを副長なんぞにとられるなんてっ!!」

「俺の方が絶対優しくしますよ!?」

 沖田の外見に惑わされ、迫って殴られる奴ら。
 沖田の性格を覚えてる者たちは、説得は無駄だと分かって作戦を練る。

「あの鬼の堅物副長を落とすねぇ」

「やっぱあれだろ、沖田は可愛いし、色仕掛けしか」

「何だかんだ言って女の影が絶えねぇし、好きモノだよな」

「でも、やっぱ、いくらなんでもそれだけじゃ、隊長も下にモノはついてるし」
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