小説

□その手の先に(秋)
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 初恋は実らない。と、古来から決まっているらしい。
 同性で8歳も年上で女にモてて、しかも姉に惚れてる男を好きになったおれに対する嫌がらせ&駄目押しなんだろうか。

 憧れや親愛から発展した温かな感情なら諦められた。近藤さんのように優しい感情なら勘違いだと納得できた。
 しかし、一目見たときから憎んで憎んで憎んで、―殺したいほど好きになってしまったこの激情を、いったいどうすればなかったことに出来る?



 川辺。
 秋の夕日は落ちるのが早い。
 斜めから差し込んだ赤い光が、女と男を照らしだしていた。姉上と土方だ。
 きっと、暗くなる前にと道場へおれを迎えに来た姉上が、偶然出てきた土方と鉢合わせてつい話し込んでしまったのだろう。
 病気の所為であまり声を発てて笑わない姉上が、今は嬉しそうに笑っている。 おれには引き出せないその笑顔をどうしても壊すことが出来ず、土手の上からぼんやりと眺めていた。
紅葉をさらった秋風に咳き込む姉上。仏頂面した男が慣れた手つきで自分の外套をその細い肩に掛ける。幸せそうに頬を染める二人の姿をこれ以上見ていられず、おれは独り家に帰った。
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