キリリク
□888番§せいひ様
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溺愛ロジック
そろそろ炬燵が恋しくなってきた晩秋の夜。
白い息を吐きながら、土方は自分の部屋へと急いだ。
色町で買った温もりも、屯所の殺伐とした闇に奪われていく。
足の裏から無情な冷気が這い上がる。
一番離れたところにある自分の寝床を恨みつつ、廊下を曲がる。
先ず見えたのは、白い腕。
「―――ッ!!」
廊下に、白い腕がにゅっと、伸びていた。
季節はずれの幽霊かと、思わず悲鳴を挙げかける。
だが、その腕が見覚えのある部屋から伸びていると気が付いた。
一番隊長―――沖田総悟の部屋だ。
気配を殺してそっと部屋をのぞき込む。
ムッとするような甘さと酒の入り混じった香りの中、酒瓶に囲まれて寝入る総悟の姿。
「何してんだ・・・・・」
病気や刺客で倒れたのではなさそうだと、土方は安心する。
開け放たれたままのその部屋は、外と変わらぬ寒さだった。
「コレじゃ、風邪ひくな」
この部屋よりは暖房器具のある自分の部屋の方がマシだろうと、上着を掛けて細い身体を抱き上げる。
いくら気配を消しているとはいえ、感覚の鋭い総悟がここまで目を覚まさないとは。
一体どれほど飲んだのか。
「・・・無茶飲みするほどの、悩みでもあるのか」
無論、返事はない。
目の前にある、無防備な可愛らしい寝顔が、苦しかった。