小説
□越ゆる年
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もう、なんというか。
挨拶を交わしたあと、土方さんが正気に返って、衆目の中から逃げるようにパトカーに乗り込んだ。
全力疾走したせいか、二人とも息が荒い。
「ひ、じかた、さん、明日に、は、きっと町中に、噂、広がってやす、ぜ?」
「新年だっ、皆そ、んなくだらない、コトなんざ、忘れてるっ!」
走ったせいだけじゃなく、土方は耳まで真っ赤になっている。
「へへっ、でもおれは、ちょっと、うれしかった、かも」
笑いかけると、隣の土方が息をつめるのが分かった。
「なぁ、総悟・・・」
名前を呼ばれると同時に、背もたれが後ろに倒された。
驚いて硬直しているおれの上に土方がのしかかってくる。
「なにしてるんで・・・?」
この男の考えるコトなど知り尽くしているが、恐る恐る確認をとる。
「姫はじめ」
「やっぱりか・・・。ここドコかわかってます?」
「公用車専用駐車場パトのなか。人気無し」
「しごとー」
「うるせぇな。お前が可愛いこと言うのが悪い」
「くそ野郎。のーミソ腐ってまさぁ」
うるさいとばかりに口を塞がれる。
さっきとは違う、快感を探り出すような深いキス。
押し返そうと肩に掛けた手は、土方によって捕えられ、シートベルトに固定されてしまう。
「んっ・・・はぁ・・」
解放される頃には、全身の力が抜けて、両手の拘束がいらないくらいだ。
「お前に触れられるのも、一ヵ月ぶりだから」
切なそうに頬に手を添えられれば、抗議の言葉さえ消えてしまって。
ラジオか何かの、耳障りなノイズと小さな聞き取れない声だけ。
二人を邪魔できるものは何もなかった。