小説
□ゆらぐ、
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下弦の月が愚かな人間達を嘲笑っていた。
開け放った襖の縁に背をもたれて、沖田は息を吐く。
土方に初めて抱かれたのは上弦の月の頃だから、もう半月も経つ。毎晩欠かさず、獣のように情を交していたので、こんな静かな夜でさえ、渇きを覚えてしまう。
身体を満たしてくれる腕は今、ここに無い。
近藤さんと松平公のお供に連れていかれたからだ。本人は行きたくないと抵抗していたが、今夜中には戻ってこれまい。周りの娼があの色男をそのまま帰すはず無い。
あの男も、言い寄られれば万更でもなく、抱くのだろう。元もと女好きの癖に、沖田を誰かに傷つけられるのが厭で、同性を抱いているのだ。
「バカだねィ」
そんなに過保護だから、自分などに付け込まれるのだと、沖田は薄く笑う。
姉との恋でも、道場を出るときも、姉が死んだときでさえ、結局土方は沖田を切り捨てられなかった。
ただ哀れな子供に対して、総ての責は自分にあるように感じてしまっている。
今も、沖田を抱くとき、土方は酷く辛そうな顔をするのだ。
ばかげている。
沖田の欲求不満に付き合わされて、柔らかくもなく面倒な身体を抱かされているのに。
あんなに傷ついたような表情で。
それでも、土方との交わりは沖田を満たしてくれるのだ。
与えられる腕の温かさや、真直ぐに自分だけを見つめる瞳、切なくなるほど優しく感じる口付け、名前を呼ぶ低く掠れた声。
初めは誰でもよかったはずなのに。
溺れてしまう。
囚われてしまう。
もう、土方以外に触れられることすら厭うのだ。
決して何者にも心を許さないと誓っていたのに。
業の深いことに、土方の総てが欲しいと願っている。
今、土方に抱かれているであろう遊女にすら嫉妬して、そんな自分が哀れで可笑しくて、沖田は静かに、泣きながら笑った。