小説

□透明人間パニック☆
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 なんというか、朝から厭な予感はしていた。

 悪寒がし飛び起きると寝相の悪い総悟の脚が俺の胸板に乗っかっていたし食堂に行くとマヨ切れで屯所を出る時目の前を黒猫が横切りついでに言うと朝の占いでは『黒目黒髪で瞳孔が開いて、今煙草に火を点けているアナタ、今日は人生で最も最悪な日です。早朝のうちに首を吊るのがベストでしょう』え、ドンピシャで俺じゃね?つか俺しか居なくね?最も最悪って日本語おかしーだろ?なんつー、恐ろしい結果を聞いてしまってた。

 だからと言って、こんな気色悪い怪物と戦う羽目になるとは予想もしなかった。
 バカ皇子とか言う、頭のカルソーな親地球派の天人が勝手に連れてきて、逃がしてしまったとか言う異生物は。

「ふくちょー」「土方さーん」「トシーィ」「土方ァ」

「分かってる、何も言うな」

「あれ、たこ焼きにして食えンのかね」

「食いたいのなら遠慮なくいけ。但し食われるのはお前の方だと思うがな」

「土方さん、特大マヨ持ってきましたぜィ」

「食えってか、アレを?糞気色悪いアレを。ほら、お前が行けよ。たこ焼きとか焼き烏賊とか好きだろ」

「遠慮しときます。おれァもっと小ぶりなのがいいんで。大丈夫、土方さんならいけまさァ」

「食われろってか?」

「あァ、アンタ触手プレイがお好みで?」

「気が萎えるからホントに止めてくれ・・・・」

 今日の昼食に蛸が出てこなくて良かった。出てたら確実に吐いてた。
 周りの隊士も、幾分顔色が悪い。

 まぁそれも致し方ないと思う。
 造形は確かに蛸に似ていなくはない。
 蛍光色の紫の体色に黄緑色に点滅する吸盤、ウニョウニョと蠢いた場所にはショッキングピンクの粘液、そして5mはあろうかという大きさを無視すればだが。

 はっきり言って近づきたくない。
 剣の届く範囲に寄ることさえしたくない。
 こんな気色悪いモン、バズーカで集中攻撃して微塵に吹き飛ばしてやりたいが、生憎此処は繁華街のド真ん中。巨体のクセに意外とすばやい怪物に避けられでもしたら厄介だ。

「――――分かった、俺が行く。お前らは援護しろ」

 真選組の副長が、気持ち悪いから斬れないなど笑い話だ。己が出来ないことを部下に押し付けるような阿呆な真似していると、組織は動かせない。
 覚悟を決めて、触手の間を走り抜けようとすれば、右横を風がすり抜けた。

「――おれァ一応、斬り込み隊長なんでねェ。触手系が苦手な土方さんに一つ貸しで」

 蜂蜜色の髪の毛が揺れる。
 早い。
 舞でも踊るような優雅な動きで、総悟は自分に触れようとする触手を鮮やかに斬り飛ばして見せた。
 捕らえきれない剣閃に怪物も怯む。
 気づけば、総悟は怪物の頭の部分に刀を付きたてようとしていた。

「終わりでさァ。タコ野郎―っ!?」

 だが、後一歩というところで足を滑らせる。道路に付いた粘液のせいだ。
 そして、タコもその好機を逸するはずなく、総悟にその筒状の口を向けた。

「隊長っ!!」「沖田っ!!」

「総悟っ!!!!!!」

「トシっ!」

 正直、何も考えていなかった。
 ただ、身体が勝手に動いて。
 倒れていたあいつを近藤さんの方へ蹴り飛ばして、その得体の知れない液体を真正面に浴びた。
 気持ち悪さだとか恐怖だとか通り越して、本能が刀を怪物の眉間に突き立てる。
 怪物は断末魔の悲鳴を上げながら、俺の上へ圧し掛かってきて。
 最期にチラリと見た総悟は、信じられない、といた表情をしていた。

 俺だって信じられねェよ。
 近藤さんじゃなく、お前を庇って死ぬなんて。
 けど、何でだろうな。後悔はない。
 ああでも、愛してるの一言ぐらい、死ぬ前に言っときゃあ良かったか。今まで一度も伝えたことなかったしな。
 今更、馬鹿みたいなことを考えながら、俺の思考はブラックアウトした。
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