小説
□サロメ
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「――っ!」
身体が跳ねた。衝撃で布団が宙を舞う。
周りを見渡せば、書類に半分埋もれた自室の万年床のうえ。
「・・・ゆめ、か?」
まだ、動悸が治まらない。
あまりにもリアルな悪夢だった。
震えが残ったままの指先に、枕元に落ちていた紙がカサカサと鳴る。
拾い上げたのは、異国の劇パンフレット。
「これのせいか、あんな夢を視ちまったのは」
「土方さーん、死んでやすかぁー?」
返事も聞かずに開かれる障子。
強い日差しが目に痛い。
目を細めて、入ってきた総悟を見つめていれば、不審に思われた。
「アンタ、鳩がバズーカ食らったよーな間抜けなツラしてますねィ。どーしたんで?」
「いや・・・。つーか、鳩にバズーカはないだろ。動物愛護団体から抗議されるぞ」
「へーぇ、アンタにどーぶつを哀れむ感性があるとは知りやせんでした」
「弾の無駄だ。経費じゃ落とさせねぇぞ、給料天引きだ」
いつもの応答にも覇気がない。さすがに総悟も心配したのか近づいて顔色を診る。そして俺が手にしたままの紙に気付いて、奪い取った。
「“サ・ロ・メ”?」
総悟が知らないのもムリはない。
昨晩、天人の接待で連れていかれたのは、おぺら座とかいう劇場。
異国の王の義娘であるサロメは、ある時井戸の中から不思議な声を聞く。
兵士に尋ねると井戸の中には父王を批判した預言者が幽閉されているのだという。
好奇心に駆られたサロメは兵に命じて預言者を連れ出し対面する。
預言者に魅せられたサロメは、預言者に口付けを求め、提案する。
もしあなたが私の想いに応えてくれるなら、此処から出してあげましょう。
預言者はサロメを拒み、自らの美貌に自信があったサロメは預言者を激しく憎むようになる。
宴会の場で王に請われて、踊りの名手であるサロメは、この世のものとは思えないほどの最上の踊りを披露する。
感激した王がサロメに褒美を尋ね、サロメは預言者の首を望む。
銀の皿に乗せられた預言者の首を掲げてサロメはその冷たい唇に己のそれを重ねて笑う――。