キリリク

□1234番§駿河様
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 昼下がりの一本道を男は歩いていた。
 黒い髪に黒い隊服。背丈はすらりと伸び、精悍な男らしい顔つきは、周囲の女の目を引き付けて離さない。
 目付きが悪いのが玉にきずだが、文句なしにイイ男だ。
 だが、その男はクールな顔に似合わず、甘い匂いが漂う女子供に人気の甘味処に入っていった。

 いきなり現れた警官に、周囲はギョっとして、手を止める。
 視線を集めることに慣れているのか、はたまた単に鈍いだけか、男は気にした素振りも見せず、店内を見渡した。

「――オイ、総悟。こんな所でなにしていやがる」

 ようやく淡い飴色の髪を見つけた男は、その細い肩を掴んだ。

「あーぁ、煩いのに見つかっちまったかィ」

「勤務中にサボって遊んでるお前が悪い」

 黒髪の男―土方十四郎は沖田の正面の人物が、存在しないかのように沖田を引っ張っていく。
 みたらし団子を頬張っていた沖田は、正面の銀髪に頭を下げた。

「すみません旦那ァ。この話はまた今度・・・」

「いーよ、沖田君。
 甘ぁいデートを邪魔するなんて、馬に蹴られて死んじまえ大串君」

 みたらしの串を口に加えたまま小馬鹿にするように、沖田の正面にいる坂田銀時が笑う。
 自分の恋人の(はずの)沖田とデートしていたと、堂々宣言されて、土方のこめかみに青筋が立つ。

「誰がっ大串だ!
大体、総悟はテメーのじゃない、俺のモノだ。気安く寄るな」

 言い捨てた土方は、無理矢理沖田の腕を掴んで、店から連れ出そうとする。

「あーあ。コレだからマヨラーは。悋気ばっかで餌やんない男は嫌われるんだぜ。なぁ、総太郎くん」

 沖田の口の端に付いたみたらしのタレを拭い、その指を舐める銀時。勿論、土方に対する嫌がらせだ。

「そーですね旦那ァ。その人ァ、口煩いし、気が利かないし、デートもしたことないンですぜィ」

 調子に乗った沖田が銀時に擦り寄った。他人から見れば猫が気に入った柱に体を擦り付けたような微笑ましい光景だが、嫉妬に狂った男には誘惑しているように映った。
 元から開いていた瞳孔が、さらに広がる。
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