小説

□なごり夏
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「ごめんな、総悟ッ!急に用事が入ったんだ!」

 ぱんっと額の前で手を合わせ、近藤が子供に謝る。
 茫然と近藤を見つめる子供――総悟。

 無理もない、と土方でさえ思う。
 今年最後の夏祭り。
 去年は総悟が熱を出して行けず、近藤が今年は必ずと約束していたもの。
 それが近藤の急用で駄目になるとは。
 子供嫌いな土方も、どれほど総悟が祭りを楽しみにしていたかを思えば哀れになってくる。

 両親を早くに失い体の弱い姉と二人で暮らしていた総悟にとって、初めての夏祭りだったのだ。

 それも、父親代わりの近藤さんにつれていってもらうという、大切な。

 それでも、総悟は泣きも怒りもしなかった。

 まるで物分かりよい大人のように、一つ頷いて去る。


「・・・総悟ーッ!!」

 近藤の方が余程傷ついた子供のような表情で、土方に掴み掛かる。

「トシー!どうしよう!?総悟に嫌われちまったかな!?“パパなんて嫌い!”って言われたら俺ァもう・・ッ!!」

「おおおお落ち着けよ!総悟は最初からあんたをパパなんて呼ばねーだろ!?」

「そーだけどよぅ!あの子は俺の息子みてぇなモンなんだよ!男同士の約束破るたァ父親のすることじゃない!!総悟もきっと失望してるッ!嫌われたーッ!」

「あのガキがあんたを嫌うなんざ天地が引っ繰り返ってもありえねーから安心しろ!今だって納得しただろ!」

 ガクガク首を揺さ振られて、土方がなんとか言葉を紡げば、近藤の手が止まる。
 しかし、近藤の目からは涙が滲んでいた。

「総悟はなぁ、よい子なんだ」

「普段の様子からは到底そう思えないが」

 悪意ある攻撃を食らっている土方は顔をしかめたが、親馬鹿には通じない。

「早くに親を喪って、ミツバ殿に負担をかけさせまいと、いつも独りぼっちで遊んでいたんだ。道場に来るまで」

「・・・」

「今だって、俺に文句一つ言わず引いてくれた。・・・行きたかったろうになぁ。総悟はとっても優しい子なんだ」

 そういってまた泣きだす近藤の手を、振り払う土方。

「違ぇよ」

「トシ・・・?」

「そういうのは良い優しい言うんじゃねぇ。
 単なる意地っ張りだ」

 あの子供も、良い子とか優しい子とか言われるのを拒む気がして。

 土方は、初めて子供に自分から声をかけた。

「連れていってやる」
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