小説

□凍てゆるむ月
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 屯所に辿り着いて、裏口の扉に触れると、中から勝手に開かれた。

「朝帰りですかィ、色男」

 招き入れたのは、白い小袖の少年。深夜なのを気にしてか、抑えた声でニヤリと笑う。

「鳩がロケット花火食らったような顔してやすぜィ」

「・・・なんでこんな時間に起きてんだ」

 答えは奴の右手に握り締められたわら人形が語っている。

「トモダチの鈴木に体育館裏に呼び出されたんでさぁ」

「違うだろ・・明らかに呪ってただろ」

 何だか悩んでいたのがバカらしくなってきた。足音を立てないように早足で総悟の傍を通り過ぎる。

「どこ行くんで?」

「風呂」

「ーあぁ。土方さん、アンタ斬りたくない奴を斬りやしたね」

 思わず振り向けば、悪戯に成功した子供の、邪気のない笑みがあった。

「そんなに気に食わないなら、やらなけりゃいーだろィ」

「仕事だ」

 冷たく吐き捨て逃れようとするのに、なぜその手は俺を引き止めるのか。

「待ちなせぇ。そんなに殺気はなってたら、寝てる連中まで起きちまう。
 いくら鬼の副長でも、早番の奴らを起こすような迷惑な真似、しやせんよね?」

 俺が不機嫌なときに限って、総悟は正論を説く。いつもは自分が率先して迷惑かけるくせに。

「・・・わかった。外で寝てくる」

 野宿ではない。女を抱いて欝憤を晴らせば、少しはましになるだろう。
 ソレがわかったのか、総悟は顔をしかめた。

「色町の姐さん達も嫌がりまさぁ。今のアンタ、鬼みてぇだし」

「どうしろつーんだ」

 苛立たし気に睨み付けると、細い腕が顔に伸びてくる。意味を読み取れなくて僅かに身じろぎすると、頬に触れるか触れないかの位置で手が留まる。

「どうしても抑えられませんかィ?」

「・・・」

「分かりやした、少し屈んでくだせぇ」

 行動を起こす前に袂を強く引かれる。

「!」

 俺の唇に、総悟の柔らかなソレが重ねられた。紅い瞳が俺を間近で直視したまま、心を見透かしていた。




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