小説

□恋し人(夏)
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パタン。

 いつもなら開けっ放しの、障子を閉める珍しい音に、ようやく俺は背後を振り返った。
 金に近い淡い飴色の猫っ毛。
 紅玉のような美しく大きな瞳に初雪のような白い肌。
 華奢な体躯を白い小袖に包み、愛刀清光を携え。
 少女と間違うような可憐な甘いマスクには、いつもと変わらぬ無表情。
 まだ若いが、歴とした真撰組一番隊隊長、沖田総悟その人である。

「・・・どーした、そんな上機嫌で」

 総悟はいつもと変わらぬ無表情だが、長年の付き合いの所為か、コイツの機嫌を量り間違えたことはない。

「土方さん、今日が何の日かわかりやす?」

 明日のことだろうか。

「忘れるわけないだろう。近藤さんなんて、一ヶ月も前から準備に奔走してたんだぞ」

 そう。明日は、7月8日。
 コイツの誕生日だ。
 そして、とっつあんの提案で、大人として正式な元服を迎える。

「今夜は早く休んでおいたほうがいいぞ。明日はきっと丸一日中飲んだり食ったりドンちゃん騒ぎだ」

「いや、さっき子の刻を過ぎやしたから、今日ですぜィ」

 夜目にもくっきり浮かび上がる緋色の眼が万感の思いを込めてこちらを見ていた。

「十六に、なりやした」

 大きくなったものだ。出遭った頃は十にもならねぇ餓鬼だったのに。
 幼い頃を思い出すと、何だか得体の知れない感情が込上げてきて、総悟から眼を逸らし、

「おめでとさん」

とだけ呟いた。

「ありがとうございやす」

 いつになく素直に礼を言う少年に、虚を突かれる。

「そんなに嬉しいか?大人になることが」

 自分で言っておいてなんだが、まぁうれしいだろう。仲間に一人前と認められることは、男なら誰でもうれしいモンだ。
 特に、物心付いた頃から刀を奮い、守るべきものの隣にいたコイツなら猶更。
 だが総悟は首を振って否定した。

「違いまさぁ、大人になるから喜んでいるわけじゃありやせん。
約束の日が来たことに、おれァ、感謝してるんです」

「やくそく・・・?」

 総悟の顔が、やっぱり、とでも言うように歪む。

「・・・覚えていやせんか、おれとの約束」

 そういわれても記憶にない。
 しばらく待っても一向に応えない俺に、総悟は絶望したように俯いた。
 上昇していた機嫌が自由落下並みに急降下していくのが手に取れ、俺は慌てて伺いを立てる。
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