小説
□恋し人(夏)
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「・・・悪夢?」
ぱぁん。
呟いた瞬間、横面を力一杯張られた。
痛みがあるのに、S丸出しの笑顔が眼前から消えていない。
「目ぇ覚めやしたかィ?」
「いてぇよ!!!!
・・・・・つか、何と何が、なんなんだ?」
上に圧し掛かったままの総悟(♂)に恐る恐る確認をとる。
絶対何かの間違いだ。
「おれと、アンタが」
「・・何をするって?」
「ケッコン」
「ああそう結婚ね漢字ぐらい使え・・・って阿呆かぁぁっ!?
お前男だろ!!」
「あたぼうでぃ」
「それともナニか?俺が女に見えるとでも言うのかっ!?」
「うわあ、キモい土方。
アンタにそんな趣味があったなんて、おれァちっとも知りやせんでした」
「マジ引きするな!!んな趣味あるか!!」
絶叫すれば、腹に膝が食い込んでくる。
「わかってらァ、それでも約束は守ってもらうぜィ」
声が瞳が、本気だと訴えていた。
「8年間も待ったんでィ。もう酒も呑めるし、女も抱けまさぁ。剣でもアンタに負けません。だから・・・・」
続きは聞けなかった。
胸倉を掴んで引き寄せられても抵抗さえ思いつかない。
柔らかな何かが唇に押し当てられる。
勢いが余って歯がぶつかる、焦れた様な拙いキス。
その感触に、遠い昔の記憶が呼び覚まされる。
『けっこんしろィ、ひじかた』
『ああ、お前が大人になったらな』
幼い日、桜の中で戯れに交わした約束。
「・・っつ、は・・ぁ・」
柔らかな口唇が離れた。
かすかな甘い吐息に、男としての何かが反応しそうになる。
「・・・お前、まだ覚えていたのか。あの約束」
「・・・誰かさんは、すっかり忘れていやがりましたねィ。おれァ一瞬たりとも忘れたことはなかったてぇのに」
「マジで?」
そういえば、コイツが俺の命を付狙うようになったのは、俺が色町に通い始めてからだった気がする。
それまで片時も離れることなくずっと一緒に居たのだ。
うわぁ、コイツ、意外に健気で一途?
あんなギリギリの悪戯も、尊大な態度も全て、俺の、所為?
考えると存外に心を動かされて絆されそうになり、いやいやと首を振る。
「イヤ、でも、俺は、普通に、女が好きだし」