小説
□その手の先に(秋)
2ページ/5ページ
「沖田センパイ、近藤さんが呼んでる」
防具を脱ぎ、ベタベタの汗を拭っていると、土方から呼ばれた。
近藤さんを待たせる訳にはいかないと、おれは慌てて着替える。
ふと、視線を感じて見やれば、用事が済んで出ていったと思っていた土方が、壁にもたれてコチラをジロジロ見ている。
「なっ、何見てるんでィ、気色悪ィ」
「いや・・・。防具の上からじゃ分からないが、そこそこ筋肉が付いてきたな」
近づいてきた土方が、首筋から肘までの筋肉を確かめるように指で辿る。
ぞくりと、肌があわ立った。
固まっているおれに気が付かない土方はおれの手首を掴み苦笑する。
「だが、まだまだ細っせえな。ちゃんとたらふく食っとけよ」
近藤さんが待ってるぞ、急げと言われて我に返った。
人の気持ちも知らないで、よくあんな真似が出来るものだ。もしあのまま煽られたら、ひっぱたくかキスするか、おれの身体はがどちらかを選んでいたことだろう。
「失礼しまーす」
近藤さんの部屋の襖を開ける。中を覗くと、いつも温かな室内が何処か淋しかった。異様に物が少なくなっている。
部屋の隅ではここの主が、せっせと荷造りをしていた。
「おお、総悟。来てくれたのか!」
「近藤さん、模様替えでもするんですかィ?手伝いならあのカス土方にさせてくだせぇ」
「そういわずに、まぁ、とりあえず座ってくれ。話があるんだ」
近藤さんの顔つきからして、どうやら、軽い話ではないようだ。
姿勢を正して畳の上に正座する。
「・・・大きくなったなあ」
正面に座した近藤さんが、おれを見て感嘆の声を洩らす。
毎日顔を合わせているのだから、別段驚くことでもない気がする。だが、先程土方にも同じようなことを言われたのを思い出す。
懐かしむような目に焼き付けようとするような二人の視線に不安が過る。
その不安に呼応したように、近藤さんが口を開いた。
「幕府が廃刀令を下した」
重々しい言葉だと思ったが、意味は分からない。
「はいとうれい?」
「幕吏以外、刀を捨てろと言われたんだ」
「刀を・・・捨てる?」
そんな馬鹿な。
この国は侍の国で、商人や女以外はみんな帯刀している。天人が来てから銃や爆弾などの飛び道具も入ってきたが、まだまだ主流は刀だ。
それ以上に、刀はおれたちの魂で、誇りだった。