封神
□楽園の終焉
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歪な愛情を育ててくれた楽園は
別れの挨拶さえ与えぬまま
呆気なく崩落した。
残された私たちは
傷口を塞ぐ術を持っていない
†楽園の失墜
「…キミは何をしているんだい」
「分かっているのに聞かないでくれ。今は時間が惜しい」
工学ゴーグルを掛けたまま後を振り向きもしない太乙。その回りには、つい先日まで威厳と叡知の象徴として天空を支配していた崑崙山脈の膨大な遺産。
太乙の、らしくなく傷だらけの指が、周囲のコードを魔法のように操り、簡易プログラムを施された黄巾力士が非力な彼の手足がわりに瓦礫の山を解体していく。
解体された鉄屑や機械部を修復していくのは、新たに作製されたのであろう膝丈の小さな復旧ロボット宝貝だ。
四十体以上の自動宝貝を日中夜問わず働かせ続ける処理能力と、膨大な仙気を維持する精神力には称賛するが、太乙は既に限界を超えている筈だ。
「…生体学の専門家として忠告するけど、キミ、脳が焼け焦げて死ぬはめになるよ。むしろ、リミットは過ぎてる」
「平気だよ、私は。こんなの何時ものことさ」
「明らかに無理をしている。キミらしくない」
「無理をしてでも進まなきゃいけない状況じゃないか」
「限度がある。進むリスクより、キミを失う方が損失が大きい」
「それは彼らだって一緒だったよ」
「太乙…」
「残された者に幸せに成って欲しいなんて、ただのエゴだ…私なんかより、あの子の方が、全てを背負わされて傷付いてる」
「…太公望はちゃんと泣いてたよ。彼は先を見据えてる。キミより強いね」
「後ろ向きで悪かったねッ!!それでも、あの子の負担を減らすために頑張ってるんだよ」
「頑張った結果なら死んでも構わないって?馬鹿じゃないの」
「………………」
「云っておくけど、キミが死んだ後にナタクや太公望の世話なんかしてやらないよ。私は後追いするからね」
「ッ!?」
「君を徳や玉なんかに渡す積もりは毛頭ない。これっぽっちも、無い。だからキミは、今後の皆が心配なら生き残るしか無いんだよ」
「……………君らしくない」
「なんとでも。私はどっかの筋肉馬鹿や剣術馬鹿みたいにお人好しじゃないからね。我儘だろうと、キミさえ居ればそれだけでいい。キミが逃げるなら、全てを棄てたって構わないよ」
「…それって告白?それとも、脅迫?」
「どっちもだよ」
傷だらけの太乙を後ろから抱き締めてみる。
日溜まりと大空を失ったキミは泣くことさえ忘れてしまったけれど。
どうせ総ての終わりには、彼等が手を広げて待ち構えているんだろうから。
今だけは、私の傍で羽を休めておくれ。