封神

□雷火 弐
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追い掛けていれば、いつか必ず手に入ると信じていた。

否、無理矢理力で繋ぎ止めて己のものにした。

それは失う手段だと気付かない振りをして。

すぐそばにある気配。温もり。優しい言葉。

けれど、手を伸ばした瞬間に、指先を掠めて去っていく。

残ったのは鮮烈で、焦げ付く光の残滓だけーーー。

俺が傷つけたあの慟哭には、もう届かない。



†雷火 弐





「太乙…っ、愛してる!!」

切な気に眉を寄せて囁く男の頬に震える指を添える。

胎内に突き刺さった男の欲望は、今にもはち切れそうな位、ドクドクと脈打っていた。

しかし、道徳が私を傷つけることは、もうない。衝動を抑え込んだ、緩やかな律動に唇から勝手に喘ぎ声が洩れる。

「ふぁ、んっ、どうと…く」

生理的な涙の向こうで心配そうに見詰めてくる男の名を呼べば、それはそれは嬉しそうな笑顔で口付けられた。

日に焼けた唇はかさついていて、少し痛い。

私はそれを冷静に観察する。

身体は素直に快楽に応えるが、心は薄い膜の向こう側で問い掛け続けていた。

ーーー本当に、此れで正しかったんだろうか?

幾度身体を重ねても、求められても頭は理性を手離せない。

ねぇ、君は満足なのかな?

大切な親友を傷つける問い掛けなど出来はしないのだけれど。

「太乙…、何を考えているんだ?」

行為が終わった後、まだ荒い吐息でぼんやりと臥せっていると、背後から逞しい両腕に抱き締められた。

普段は馬鹿力なのに、こういう時だけ壊れ物に触れるように臆病で優しくなる。

項に触れる唇の感触が擽ったくてクスクスと笑えば、安心したように道徳が腕の力を強めた。

日溜まりのような温かさと幸福感が全身に巡って、漸く身体に心が当てはまる。

「なんだい、徳?随分と甘えただね」

「あぁ…そうかもな。でも…時折不安になるんだ。こんなに傍にいるのに、お前が遠くにいるみたいで…」

後ろから抱かれていて良かった。
今の私の顔は絶対に見せられないーーーこの優しい男には。

「……私は傍にいるよ、道徳」

嘘つきな私の唇が、そっと答えた。







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