その他
□求めるもの、その先は
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完璧に割り切れたと思っていた。
秀麗と邵可と奥方がくれた幸せが、自分を救ってくれたから。
過去なんてどうってことない。そういって、茶州へ戻ってきた。
瞑祥と再会し、それが砂の盾だったと思い知らされた―――。
「おい、静蘭」
呼ばれてハッとする。いつのまにか自分達の周りには十数人の兵士が取り囲ん
でいる。
「ぼーっとしてちゃダメだろ。いくら雑魚とはいえ、弓持ってる奴もいるんだぜ
?お前に傷でも負われると、姫さんに夕飯抜かれちまう」
庇うように前に一歩踏み出した燕青。十四年経ってますます広く強くなった背
は、あの時とかわらず静蘭を守ってくれる。
どうしていつも、コイツは・・・。
足元に転がった兵達を蔓で木に繋いでおく。
「朝になれば誰かが見つけてくれるだろ」
血のついた棍に砂をかけて拭い、燕青は立ち上がる。
あの頃より、数倍大きくなった立派な体躯。
大きな包容力をもった鋼の精神。
手を伸ばせば、否、欲しいと思うだけでいつでも差し出されている力強い支え
が、今はひどく苦々しい。
無力な子供のように縋り付いて、くるしいこわいと泣き叫びたい。
できるはずない。
一番消してしまいたい記憶を呼び起こされた今は、誰の傍にも居たくなかった
。
弱い自分を見せたくなかった。
「せーらん、また意識が飛んでるぞ。・・・そんな顔するなよ。今のお前は確実
にあいつより強いんだぜ。しかも、もれなく心の友の俺が後ろを守ってやる。あ
いつらの好きにはさせねぇよ」
何の含みもない言葉と腕が静蘭を包む。
「・・・俺にも、お前の苦しみを背負わせてくれよ」
「馬鹿なことを言うな。これは私の問題だ。お前なんかに負わせられるものか。
離せ」
冷えた言葉と拒絶は、あの頃を知る燕青に虚勢だと見抜かれる。
腕に力が込められた。
「・・・お前は、強いよ」
優しく撫でるような声に意図せず、肩が跳ねる。