その他

□求めるもの、その先は
1ページ/9ページ

 完璧に割り切れたと思っていた。

 秀麗と邵可と奥方がくれた幸せが、自分を救ってくれたから。

 過去なんてどうってことない。そういって、茶州へ戻ってきた。

 瞑祥と再会し、それが砂の盾だったと思い知らされた―――。


「おい、静蘭」

 呼ばれてハッとする。いつのまにか自分達の周りには十数人の兵士が取り囲ん
でいる。

「ぼーっとしてちゃダメだろ。いくら雑魚とはいえ、弓持ってる奴もいるんだぜ
?お前に傷でも負われると、姫さんに夕飯抜かれちまう」

 庇うように前に一歩踏み出した燕青。十四年経ってますます広く強くなった背
は、あの時とかわらず静蘭を守ってくれる。

 どうしていつも、コイツは・・・。




 足元に転がった兵達を蔓で木に繋いでおく。

「朝になれば誰かが見つけてくれるだろ」

 血のついた棍に砂をかけて拭い、燕青は立ち上がる。
 あの頃より、数倍大きくなった立派な体躯。
 大きな包容力をもった鋼の精神。
 手を伸ばせば、否、欲しいと思うだけでいつでも差し出されている力強い支え
が、今はひどく苦々しい。

 無力な子供のように縋り付いて、くるしいこわいと泣き叫びたい。

 できるはずない。

 一番消してしまいたい記憶を呼び起こされた今は、誰の傍にも居たくなかった

 弱い自分を見せたくなかった。

「せーらん、また意識が飛んでるぞ。・・・そんな顔するなよ。今のお前は確実
にあいつより強いんだぜ。しかも、もれなく心の友の俺が後ろを守ってやる。あ
いつらの好きにはさせねぇよ」

 何の含みもない言葉と腕が静蘭を包む。

「・・・俺にも、お前の苦しみを背負わせてくれよ」

「馬鹿なことを言うな。これは私の問題だ。お前なんかに負わせられるものか。
 離せ」

 冷えた言葉と拒絶は、あの頃を知る燕青に虚勢だと見抜かれる。

 腕に力が込められた。

「・・・お前は、強いよ」

 優しく撫でるような声に意図せず、肩が跳ねる。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ