その他

□さよならの後の告白
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「・・・どうしてかな?君たちうまくやっていただろう。
 このまま組んでいれば、いずれ最高の職人と武器になれるのよん?」

 死神に賛辞を送られても、スピリットの決意は変わらなかった。
 その顔はいつもの軽薄さを捨て去り、悲痛なまでに真剣だった。

「俺じゃ駄目なんです。
 アイツの狂気を止めることができない。むしろ加速させてしまう」

「どーしてかなん?
 君とパートナーを組んでから、シュタイン君は随分落ち着いたよ。前みたいに通行人を無闇に解体することも、狩られる者を残虐に殺すこともしなくなった」

 死神の被っている面の所為でその表情は見えないが、声色から喜んでいるのがスピリットにも分かる。

 けれど。

「あいつが無茶しなくなったのは、単に執着する対象が決まったからです。別に狂気が治まったわけじゃない」

「シュタイン君が執着した対象は、君?」


 何もかも見透かされているような死神の赤い髪が揺れる。
 けれどスピリットは死神から目を背けなかった。

「そうです。
 あいつは俺に執着している・・・自分の命を投げ打つ程に」

 死神は喉の奥で唸る。

「研究対象として解剖されかけたり、実験されたり・・・そういうのが厭なわけじゃないのね」

「もちろんそれも嫌です!」

「けど、それだけやられても何だかんだ言って君もシュタイン君の世話焼いてたじゃない。
 君たちみたいに魂も心もしっかり繋げて庇い合えるパートナーはなかなか居ないよ」

 一呼吸おいて、死神は決定打を打ち込む。

「身体も、ね。君たちは恋人でしょう」

 死神の揶揄するような言葉にも、スピリットは感情を見せない。
 深い海のように静かな瞳だけが、時折愛しさと哀しさを伝える。

「あいつに俺が抱かれていたことは確かです。狂気を抑えるために必要でしたし、俺もあいつを受け入れた。だがあいつの世界は、俺と出会ってから閉ざされてしまっています。
 ――そんな子供じみて狂った箱庭にあいつを閉じ込めて置きたくない」

「でも、シュタイン君は望んでそこにいるように見えるよ」

「いずれ、壊れます。
 俺か、あいつ、どちらかが。その前に止められるものなら止めたい。
 あいつは、人としても職人としても最悪なヤツですが、それでも大事な相棒なんだ」

「・・・シュタイン君にはきちんと話したのかい?」

「あいつに言えば、俺は監禁されて一生あいつから離して貰えませんよ」

「う〜ん、本当は職人と武器が合意の上で、解消すべきなんだけどなァ」




***

「後悔しないかい?シュタイン君と離れること」

 出ていこうとするスピリットの背に死神はもう一度問い掛ける。

 鮮やかな赤が翻った。 
「しますよ。あいつは人生初の相棒で恋人で天才で、どんな武器とも魂の波長を合わせられるから、あいつ他のヤツと組んでるトコ見る度嫉妬するし、しばらくの間は見ていられないくらい荒れるでしょう。
 けど、あいつを死なせるよりマシだ」

 泣き笑いのような顔で、最初で最後の愛を呟く。

「愛しているんです。
 あいつの馬鹿げた執着なんかより、ずっとね」

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