その他
□白い狂気
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※微グロ?博士×鎌父
すべてが白だった。
この世界が狭いのかも広いのかも定かではない。
一切の感情も曖昧さも許さない真白。
そんな世界で汚点のように残った自分が、何かおぞましい存在に思えて嫌だった。
音も色も物もない空間。
ああ、俺はあいつを探していたんだ。
でも、その呼び名さえ分からないんだ。
記憶力が一定方向しか発揮されない頭を掻く。
何もないと思っていたそこに、自分の赤い髪がはらりと落ちる。
『アンタは髪も血も、魂の波長ですら赤いんだ』
ああ、髪も服も魂も白いおまえとは正反対だよ。
『知りたかったんだ・・・。あんたの心臓はどれほど赤く染まっているのか』
そりゃ、誰だって赤いだろうが。
おまえのは黒そうだが。
『世界から一つずつ色が失われていくんです。
でも、先輩だけはどんなに離れていても人込みのなかにいても、鮮烈な赤が知覚できるんですよ。
変でしょう?どうしてなのか突き止めたくて』
あほか。
毎回解剖される身にもなってみろ。
『俺のなかで、スピリットだけは・・・』
ああ、そうか。
この白い世界は――――、
「先輩。いい加減起きないと、解体しますよ」
「っ!」
机の上で一気に覚醒した。
無意識な手のひらが腹部を確認する。
「なっ、内臓!全部揃ってるよなッ欠けてないよなッ!」
「へらへらへら。
そんなに期待されてたなら、肝臓をたわしに替えるとか、腎臓をそら豆に替えるとかやっておくべきでした」
辺りを見れば死武専の休憩室。
目の前には昔と同じようで少し違う、シュタインのムカつく笑い顔。
「ッ!
おまえがそうやって相方時代も俺の身体をいじくってたから、今だにコワイ夢みるんだぞッ!」
今見た悪夢の原因に俺は文句を言う。
「先輩の悪夢?
どーせ女に振られるか、マカに彼氏が出来る夢でしょ」
「そんな夢を見たら正夢になる前に首を括るッ!
そうじゃなくて、おまえの・・・」
言いかけて、迷う。
あんな、何もない、白い狂気のなかにシュタインはいるのか。
声も色もない。
己の名さえ分からなくなるような狂気。
それを抱えて生活していると思えば、何とも言えなく淋しくなった。
「俺の夢?」
シュタインといえばめずらしく皮肉に曲がった口を丸く広げている。
「先輩、俺の夢見てくれてるんだ。驚いたなぁ。
あんたのなかに、俺はまだ残っているんだ」
「・・・おまえみたいに、俺だけしか存在しない白の世界なんざ御免だ」
ふと見せる無垢な笑顔に思わず呻くと、学生時代には無かった螺旋が、カコンと音を立てた。
「それでも、あんたのおかげで赤一色だけ分かるんです。
俺のなかで、あんただけが正気を保ってる」
病的に白い腕が俺の赤い髪に絡まる。
「好きですよスピリット」
反論を許さない白い言葉がかなしかった。