キリリク

□999番§霧柚様(後編)
1ページ/5ページ

後編
 銃声が鳴り響く。
 キレイに装飾されていたウエディングケーキが、銃弾を受けて無残に削られていく。
 その向うに、新郎が肩を押えて蹲るのが見えた。

「落ち着けっ!
 全員身を伏せて物陰に隠れてろっ!!!」

 土方は声を張り上げて叫ぶが、恐慌を来した招待客は、我先にと出口へ殺到する。
 人の波に呑まれて抜刀出来ない。

「くっ!」

「鈍臭いなぁ、土方さん。アンタはそこで、おとなしく指くわえて俺の活躍を見てなせぇ」

 ちゃっかり柱の影に身を潜めていた沖田が、邪魔な鬘を脱ぎ捨てて走りだす。
 向う先は梯子。
 男が銃を構え、照明器具の上の闇から新郎を狙っていた。

 沖田が懐から銃を取り出す。その動きに気が付いた男は、沖田に銃口を向けた。

 パン!パン!

短い炸裂音。
 鮮やかに裾を翻し、沖田が床を滑るように走る。

 パンッ!

 男の手の動きだけで、銃弾を避けていた沖田が、態勢を崩した。

「総悟っ!!」

 沖田はそのまま横に転がって、男を撃つ。

 パーン!

 黒服の男が落ちてくる。土方はその落下地点まで走り、男に止めを差した。

「総悟、生きてるかっ!」

 倒れたままの沖田に駆け寄る。

「生憎、まだ死んじゃいませんぜ。副長の座を手に入れるまで、死んでも死にきれないでさぁ」

「じゃあ永久に死なねーな。何処を撃たれた?」

「掠り傷でさぁ。舐めときゃ治りますよ。女物の服は動き難くていけねぇや」

「脚か」

 逃げた客が知らせたのか、外に居た隊士達が入ってくる。

「副長、ご無事でしたか」

「掠り傷だ。ホシはそこの死体、新郎が怪我してっから、病院に連れていけ」

「はっ!!
・・・あの、この女性は」

 沖田だと気付かない隊士。
 土方が、ニヤリと質の悪い笑みを浮かべた。

「今回の功労者だ。丁重に礼をしなきゃならねぇから、俺が送っていく」

 そういって、沖田を抱き上げた。

「何する・・・!」

「静かにしてろ。お前だとバレてもいいのか」

「!」

 女の姿で土方に抱き締められているのを隊士達に観られるのは、プライドの高い沖田にとってかなり屈辱的なはずだった。
 状況を理解した沖田は、顔を背け、隠すように土方の胸板に押しつける。

「帰ったら、覚えてろよ」

 恨み言もそんな状態で言われると、可愛らしく感じてつい笑ってしまった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ