突発連載
□幕間
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深々と冴え渡る空気。
無人のコンテナ群が恰も巨大な墓標のように聳え立ち、無機質な鉄の肌を晒す。
大江戸運輸。
昼間は天人と人が入り混じり、様々な物品が行き来して活気に溢れるこの倉庫も、夜半も過ぎた今は非常灯がぼんやり照らすのみで寂しい。
そのコンクリートの地面に、三日月からの淡い光に照らし出された影が映りこむ。
そのどこか歪な電柱の影から、つと先端が分かれて飛び立つ。
分かれた小さな影はくるくると回転しながら華麗に地上に降り立ち―――
「っつ痛!!!」
・・・盛大に尻餅をついた。
「やっぱ沖田さんみたいに格好良くならないな・・・」
全身渋茶の地味な忍者装束から頬かむりがはらりと落ち、ごく平凡な・・山崎の顔が露になった。
真選組唯一の専門監察は小さな悪態をつくと深夜の倉庫を滑るように駆け抜ける。
月が分厚い雲に飲み込まれ、辺りは真の闇に包まれたが、山崎の足取りに迷いはない。
(20・・・15・・・10・・・5・・ココで左ッ!)
頭に描いた地図の通りに身をコンテナの間に滑り込ませた山崎は、懐からちり紙と鉤爪付のロープを取り出して包み頭上へ放る。
鉤爪は緩く孤を描き、音もなくコンテの上部へ吸い込まれた。
山崎がくいくいと二三度ロープを手繰り寄せると、コンテナの頑丈な補強具に鉤が引っかかる手応えがあった。
(よし。これならいけるな)
一人で頷いた山崎はするするとロープを伝い、コンテナの上に登る。
腹這いになって積まれたコンテナの上から周囲を見渡すと、誰もいないはずの倉庫の扉から出てくる人影が確認できた。
(5・・いや6人はいるな。俺一人じゃ抑えられッこない。まずは様子見で、見つかったらすぐ退こう)
“テメーの戦いは斬り合いじゃねぇ、情報だ”
逸る気持ちを抑えるように冷静で厳しい声が脳裏に響く。
(わかってますよ、副長・・)
敵の気配を追いながら、山崎は目を閉じて意識を闇に溶け込ませた。
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