突発連載

□罪人縋りし蜘蛛の糸
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 それからというもの。
 人を斬るたび、土方に与えられる快楽を頼った。
 土方は『自分でやれ』と文句を言いながらも、縋るおれを拒みはしなかった。
 人を斬る不快な感触は、人の手による快感にすりかえられていく。
 土方はいつもおれに快楽を与えるだけで、最後まで抱こうとはしなかったが、その温かさは死人の冷たさを忘れさせてくれた。
 目覚めると必ず傍にある煙草の匂いに、酷く安心する。




「ねぇ、アンタ、俺がもし狂って戻らなかったら如何すんの?」

 何回目だったか、快楽に慣れ、気を失わなくなった頃。
 いつものようにおれの身体を清めてくれているアンタに訊いた。
 アンタは驚きも躊躇いもせず、言い切ってくれた。

「俺が殺してやる」

 頭の天辺から爪先まで、刺し貫かれるような衝撃。
 甘く掠れた声。

「だから、俺の知らないところで狂うな、俺が殺るまで死ぬな」

 誓約の代わりに、軽い口付けを送られた。 
 不覚にも、泣きそうになった。
 そして、この男を好きなんだと、自覚してしまった。
 大切にされているんだと、理解してしまった。



 けれど、同時にそれは恋愛感情を拒むモノであったのに、おれはその差に気付かなかったのだ。

 なんて残酷な罠。




 それから、血がざわつくことは無くなった。
 どんなに人を斬っても、どんな恐ろしい戦場に立っていても心はビックリするほど落ち着いている。
 『俺が殺してやる』
 その言葉に、魂が守られていることを感じた。
 いつまでも、その状態が続くと思っていた。



 ある日。
 見回りの途中で攘夷浪士に襲われて、斬った。
 屯所に帰っても、土方は留守だった。
 自室で膨らんだ熱を吐き出そうと、自慰をした。
 快感は高まるのに、どうしてもイくことができない。
 あの煙草の匂いと、名を呼ぶ声が欲しかった。

 知らぬ間に、あの男に依存していたことに、恐れとも怒りともつかない感情が溢れる。

 屯所を抜け出して、あの黒髪を探して町中を走る。
 ようやく見つけたその隣に、艶やかな着物を纏った女が居たとき。

 叫びだしそうになった。
 崩壊の音を聴いた。



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