突発連載
□罪人縋りし蜘蛛の糸
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限界を感じていた。
総悟のためだけにその身体に触れること。
コイツは男なんだと、幼い頃から見てきた弟分だと、理性が必死に言い聞かせてくれるのに。
乱れた髪、薄く開いた唇、俺しか見ない瞳、俺の愛撫を受け入れる身体。
「土方さん」
酷く甘い声。
このまま俺が抱いても、総悟に許されるような錯覚。
このままじゃ、マズイ。
こんな状態で抱きたくない。
総悟には、暴力と快楽を違えるために交わるのではなく、いつか愛する女と温もりを分け合うためにやって欲しかった。
最初に快楽を教え込んだ俺が言えた台詞じゃなかったが。
幸せになって欲しかった。
愛していたからこそ。
こんな一時の劣情で汚していいほど、軽い存在ではなかった。
だからいつも、自分の欲望を抑えて、総悟の目覚めを待つ。
単なる性欲処理なら、買った娼で事足りた。心は何処か冷めたままだったけれど。
総悟がもう少し大人になり、自分で整理できるようになるまで、この関係を保つつもりだった。
心の内から鳴り響く警鐘に耳を塞いで。
ある日。
見回り途中で、非番の総悟があの銀髪と居るところを見てしまった。
甘ったるいパフェを食べながら、幸せそうに笑っている総悟。
あの男が肩に手を回すのを、なんでもないように、ごく自然に受け入れていた。
その光景から何故か、目が離せなかった。
俺以外に向けられる笑顔、俺以外に触れられるのを許す身体。
身のうちを、暗い情念が妬いた気がした。
総悟が幸せなら、相手は女でも男でも変わりないはずだった。
俺のものじゃないのだから、ドコで何をしようがあいつの勝手だ。
だけれど、他の男と肩を並べ、幸せそうに笑う光景に、堪えられなかった。
嫉妬で、総悟を壊してしまいそうだった。
叫びださないよう、下唇を血が滲むほど強く噛み締めて、その場を後にする。
今晩だけは、あいつに触れまいと心に決めた。
触れてしまえば――――もうきっと、元に戻れない。
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