突発連載

□罪人縋りし蜘蛛の糸
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 旦那から貰った小さな瓶を投げてはキャッチし、屯所へ帰る。中の液体は薄いピンク色で、夕日に輝いて綺麗だった。
 こんなもので本当にあの人を振り向かせることが出来るのだろうか。
 土方はおれと出会った頃から女の影が絶えず、完全なノン気だ。
 おれの熱を処理しているときも、丁寧な扱いをするが、情欲など欠片も見せない。
 むしろ、感情を表さない黒瞳は、こちらの劣情など撥ね付けているようだった。
『素直に気持ちを伝えてみて、それでもダメなら使ってみろ』
 即効性だと聴いた。こういうのに頼るのはあまりお勧めしないともいわれた。
 それでも、諦めることはできなくて。
 おれを欲情のままに求める土方さんを見たかった。
それだけだ。
こんなことになるなんて思いもしなかった。



「失礼しやーす」

 隊士も恐れる副長室に我が物顔で押し入る。

「ノックをしてから入れ」

 振り向きもしないで、仕事を続ける土方。忙しいのに決して“出て行け”と拒絶しない。
 どんなにおれが我侭を言ってもサボったりポカやらかしても、この人は決して見捨てない。
 そんなんだから、おれは付け上がっちまうんだ。
 そんなんだから期待しちまうんだ。

 愛せないのなら、最初からやさしくなんてしないで。



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