突発連載

□罪人縋りし蜘蛛の糸
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「はぁぁああ!!」

 黒く精悍な獣が吠えている。
 普段は冷静に戦況を見ながら剣を振るうその人が、今は凄まじい突貫をしていた。
 何時だって強い副長だけれど、なんていうか、今日のキレ具合は凄まじい。
 全身血に塗れ、命を食らう姿は、まさに鬼神。
 近づく全てを薙ぎ払い、あの世へ持っていってしまうような・・。

「山崎ッ!戦況はッ!」

 鬼気迫る眼光に射抜かれて、一瞬で背筋がピンと伸びる。

「はい!表には雑魚だけです!洞窟中に高杉と幹部が潜伏している模様!」

「見取り図はっ!」

「ありません!調べたところ、洞窟内に天人の船が隠されているようです!」

「もっとしっかり調べとけ!!」

 はき捨て、敵がびびった僅かな隙に、剣に付着した血と脂を振り落とす副長。
 理不尽だと思わなくもない。今回の襲撃は全く偶然の産物で、たまたま巡回中だった三番隊の隊士が怪しい浪士と衝突。そのまま戦闘に入るうちに相手が高杉派の攘夷浪士と発覚。向こうの増員に戦力を合わせているうちに済崩しにこうなってしまったのだ。詳しく調べる暇なんてあったモンじゃない。
 それでも副長の不穏に輝く黒眼に睨まれると、全力で謝らなくてはならない気になってしまうのだ。

「どうした・・来いよ、相手になってやるぜ?」

 じりじりと周りを取り囲む敵に、不敵に笑いかける副長。
 敵は、まるで夢でも見ているみたいに副長の間合に吸い寄せられていく。

「!」

 容赦ない剣戟が、敵の首三つを一気に跳ね飛ばした。
 血の雨の中、笑みを崩さない副長に身体の芯がゾクリと泡立つ。
 それに今の副長はなんと言うか・・恐いくらいの色気を漂わせているのだ。
 女とは違う濃厚な雄の気配。下手に近づくと咽喉笛を噛み切られるのに、それでも手を伸ばさずにはいられない。むしろ首を差し出し、その牙を待ち受けるしかないと思わせるような。

「なんかすげーな・・今日の副長」

「やばい惚れそう」

 隊士たちの囁きも熱を帯びている。
 そんな中、一番隊隊長、沖田総悟だけは、青白い顔で土方を見つめていた。


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