突発連載
□罪人縋りし蜘蛛の糸
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媚薬で無理やり欲望を引き出された身体は相当苦しいだろうに。
土方の剣筋はますます研ぎ澄まされていく。
飢えた満たされることを知らない獣のように、敵の血を真正面から浴びて笑うなんて、アンタらしくない。
不十分な調査のまま行なわれるこの襲撃についてもそうだ。
冷静に緻密に作戦を練って相手を誘き出すやり方をしていたはずなのに、こんな危険も予測できないまま戦いを続けるなんて。
その穴を埋めるように自らに大勢の敵を引き付けるなんて。
一度もこちらを見ない土方に、不安が増幅されていく。
*
体中の血が沸騰しているんじゃないかと思うくらい、熱かった。
その代わり、感覚は隅々まで冴え渡り、背中に目ん玉が生えたんじゃないかってくらい敵の気配に敏感に反応してしまう。
こんな戦い方は割に合わない。直ぐにスタミナ切れして殺られる。
そう警告する理性は既に擦り切れていて、ただ純粋な本能が刃を走らせる。
抱きたいんだ。
あの柔らかな唇に吸い付いて、俺以外の全ての言葉を奪ってやりたい。
あの白い肌に俺の印を刻み付けて、全身に俺の匂いを染み付かせて。
誰も触れたことのない身体の奥深くまで俺を覚えこませて。
抱きたいんだ。
お前が幼い頃俺に向けた微笑と共に記憶の奥に閉じ込めた、この想いを伝えて。
戯れのように『すき・・』と、純粋さに満ちた瞳が告げる。
穢したくなかった。許されるはずもなかった。
抱きたい。
いつしか敵にお前を重ねて切り裂いていた。
照れたように視線を逸らすお前。
生意気そうに笑みを浮かべるお前。
人を斬って泣きたいのに決して泣けず無表情になるお前。
俺の腕の中、無防備な寝顔のお前。
それらの幻影を冷たい刀で切り裂いていく。
決して本当の総悟を巻き込まないように、敵の只中に突っ込んで。
それでも気配はずっと総悟を追いかけたまま。
この高揚は総悟の飲ませた得体の知れない薬の所為だと知っている。
それでも、欲情のまま愛するものを切り裂いて満たされようとする自分は、狂っているとしか思えなかった。
そして、俺と同じ目をしたあの男が姿を現す。
「クックック。いーィ眼をしてんじゃねーかァ」
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