突発連載

□罪人縋りし蜘蛛の糸
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「――ぃ方さん」

 ぺしぺしと頬を叩かれて目が覚めた。
 目の前には総悟の青白い顔がある。

「動けやすかィ?」

 言われて手を動かしてみようと踏ん張るが、どうにも・・・

「ってオイコラ。何してんだテメー」

 動けないと思ったら全身を土塊で埋められていた。
 ご丁寧に顔の部分だけ丸く穴が開いている。
 なせこんなに暗いのかと思えば、照明が携帯電話のディスプレイしかないからだ。

「まだここは、洞窟の中か・・・・」

「そうでさァ。生き埋めですぜ、い・き・う・め!ザキによると、瓦礫を撤去すんのに後1時間弱かかるって」

「一時間弱か・・・・」

 横目で見れば大きな岩が入り口を塞いでいる。
 あの下にいたら生きていなかったに違いない。総悟を抱き込んで倒れた瞬間を思い出し、ぞっとした。
 
 無言で倒れたままの俺を不審に思ったのか、総悟が俺を上から覗き込む。
 
 ふわりと、甘いにおいがした。

 急に二人きりを意識して、狼狽する。
 下半身の熱は冷めず、頭の芯は戦闘の興奮を忘れていない。

 このままじゃ、マズイ。

 俺の焦りを知らぬまま、総悟は俺の頬を両手で包んだ。
 冷たい手が、逆に俺の熱さを指摘する。

「怒ってます?」

「あぁ?」

 顔が、近い。
 心臓がドクドク暴れだして、飛び出しそうだ。
 暗い中、極近い距離で、紅い眼が灯っている。
 少し動けばキスできる距離。
 質問の意図を推し量る何ざ出来るはず無い。
 
 唇に感じる吐息を奪ってしまいたい。それだけが、心を占めていた。

「おれが、薬を飲ませたこと」

 馬鹿な事を。この身の内で荒れ狂う熱が、獰猛な獣が、薬の所為だと思っているのか。

「でも、こうでもしないと、アンタはおれを見てくれないから」

 馬鹿な事を。お前が初めて人を斬ってから、俺はお前以外の誰も見れなくなったのに。
 寝るときも仕事中も女を抱いているときですら。
 お前の面影を消し去ることが出来ないでいるのに。

「アンタがおれの為に、抱かないでくれてンの、分かってやす。でも、おれはもうガキじゃねぇ」

 お前のためじゃない。俺は、俺のエゴでお前に快楽を植え付けた。
 そうすることで、お前を、縛り付けたんだ。

「抱いてくだせぇ」   



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