突発連載

□罪人縋りし蜘蛛の糸
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土方さんが退院してから、一週間が経った。
 表面上、俺たちの仲は以前と変わりない。
 だが、ふとした瞬間、斜め前にある空白を意識してしまうのだ。

 あれから二週間。
 一度もアンタに触れていない。
 否、――触れることを許されない。
 せめて、傍に居たい。
 そう思って夜、部屋に行ってもアンタはいない。
 毎晩、俺への当て付けのように遊廓へ通っているのだ。

 主人のいない部屋は、嗅ぎ慣れた匂いがするのに、いつもよりどこかそっけなくて。居場所を探して暗い部屋の片隅、座り込んで帰りを待つ。

 そしてまた。
 眠れないまま、夜明けを迎えた。



「お帰りなさい、副長」

 裏口から人目を忍んで帰ってきたのに、聡い監察は見逃してくれなかったようだ。

「ああ。早いな」

「最初は黙っていようと思いましたが、これほど続くとなると口出しせずにはいられません」

 一見、何の取り柄もなさそうな監察は、実は誰より優しくて気配りが出来る。

「副長、これはあんまりじゃないですか」

「連絡は着くようにしている。近藤さんには許可を貰ったはずだ」

「でも・・・沖田さんは毎晩寝らずに待ってるんですよ」

「・・・るせぇよ、あいつが傍に居るとこっちが眠れねーんだ」

「えっ?」

「おやおや、今日も朝帰りですかィ。さすが、もてる男は違うなァ」

 裏庭から姿を現した少年。平然と揶揄する声とは裏腹に、泣き腫らした赤い目。
 心が痛い。
 だが、口は歪んだ笑みを浮かべて、傷つける言葉を吐く。

「なんだ羨ましいのか?」

「!!」

「なんならお前も一緒に行くか?いい女紹介してやるよ、二度と勘違いできなくなるくらいのな」

「ッ!」

 返答は重い拳。
 堪え切れずに、塀に寄り掛かる。

 クルリと背を向けて駆け出す白い背に手を伸ばしかけたが、頬から伝わる痛みが拒絶していた。

「ふっ、副長?大丈夫ですか?」

 心配そうに覗き込む監察に思わず笑いが込み上げる。

「ああ。当然の報いだからな」

 殴られた痛みも気にならないほど、触れた部分が愛しいのに。

 この想いは全てを破壊する。


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