突発連載
□罪人縋りし蜘蛛の糸
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土方さんが退院してから、一週間が経った。
表面上、俺たちの仲は以前と変わりない。
だが、ふとした瞬間、斜め前にある空白を意識してしまうのだ。
あれから二週間。
一度もアンタに触れていない。
否、――触れることを許されない。
せめて、傍に居たい。
そう思って夜、部屋に行ってもアンタはいない。
毎晩、俺への当て付けのように遊廓へ通っているのだ。
主人のいない部屋は、嗅ぎ慣れた匂いがするのに、いつもよりどこかそっけなくて。居場所を探して暗い部屋の片隅、座り込んで帰りを待つ。
そしてまた。
眠れないまま、夜明けを迎えた。
*
「お帰りなさい、副長」
裏口から人目を忍んで帰ってきたのに、聡い監察は見逃してくれなかったようだ。
「ああ。早いな」
「最初は黙っていようと思いましたが、これほど続くとなると口出しせずにはいられません」
一見、何の取り柄もなさそうな監察は、実は誰より優しくて気配りが出来る。
「副長、これはあんまりじゃないですか」
「連絡は着くようにしている。近藤さんには許可を貰ったはずだ」
「でも・・・沖田さんは毎晩寝らずに待ってるんですよ」
「・・・るせぇよ、あいつが傍に居るとこっちが眠れねーんだ」
「えっ?」
「おやおや、今日も朝帰りですかィ。さすが、もてる男は違うなァ」
裏庭から姿を現した少年。平然と揶揄する声とは裏腹に、泣き腫らした赤い目。
心が痛い。
だが、口は歪んだ笑みを浮かべて、傷つける言葉を吐く。
「なんだ羨ましいのか?」
「!!」
「なんならお前も一緒に行くか?いい女紹介してやるよ、二度と勘違いできなくなるくらいのな」
「ッ!」
返答は重い拳。
堪え切れずに、塀に寄り掛かる。
クルリと背を向けて駆け出す白い背に手を伸ばしかけたが、頬から伝わる痛みが拒絶していた。
「ふっ、副長?大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込む監察に思わず笑いが込み上げる。
「ああ。当然の報いだからな」
殴られた痛みも気にならないほど、触れた部分が愛しいのに。
この想いは全てを破壊する。
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