突発連載
□罪人縋りし蜘蛛の糸
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走る。
心の痛みから少しでも遠ざかるように。
けれども、心は俺の真ん中にしつこく居座って、あの人に付けられた傷口から鮮血を流し続けている。
心臓を失えばこの痛みを感じずに居られるのなら、いっそ刀で抉りだして見せようか。
あの人への想いに染まった紅い心を。
醜く歪んで殺意や憎悪すら刻んだ拍動を。
それを見せたらアンタはなんというだろう。
あの日のように嫌悪に顔を顰めるのか。
あるいは優しいアンタはおれを哀れむのか。
奔って奔って、何かに躓いて倒れる。
「ッ!」
気付けば、歌舞伎町の往来まで来ていた。倒れたまま立ち上がらないおれを不思議そうに眺めて通りすがる人、人。
ああ。
アンタが傍にいないとおれはこんなにも独りだ。
近藤さんがいる。
仲間がいる。
姉もいる。
万屋たちもいる。
けれど、こんなにも我武者羅に欲してんのは、アンタだけなんです。
アンタ意志に関係なく、心も身体もおれだけのものにしたいんです。
俯いた地面に、陽を遮る黒い影。
「アレ、オッキーじゃん。どーしたンなトコで」
「旦那・・・」
「そんなトコに寝てると、背中痛くなんねぇ?」
「死体ゴッコでさァ。旦那みたいに歳食ってねぇんで」
「うわひでぇな。銀さんまだギリギリ二十代よ」
どんよりと死んだ魚の目が沖田を見つめる。
「とりあえず、ファミレス行かね?奢ってやっからさ」
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