突発連載
□罪人縋りし蜘蛛の糸
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「まぁ、ほどほどにな」
励ましてんだか諫めてんだか分からないエールを背に屯所に帰る。
気付けば陽は傾きだしていて、ああ今日も丸一日さぼってしまったなと思う。
刀を持つ余裕もなく飛び出してきてしまって、腰が軽すぎてかなわない。
近藤さんは心配して探してくれているかもしれない。
「アンタも探してくれてンのかィ・・・」
恋愛感情としてみてくれなくても、大切にされていることには変わりないと、旦那は言った。
土方さんの態度が最近冷たいのも、半端に同情かけてずるずる引き伸ばすより、きっぱり拒絶した方がおれのためだと考えているからだと。
信じきれないけれど、その一筋の希望に賭けてみたい。
そう思えるのは、言葉でおれを嫌っていても、いつでもその眼はおれに向けられていたことを知っているから。
「楽観だけどねィ」
旦那の言葉に随分心を救われた。
『どうせ、どんなに拒絶されても諦められねェ想いなんだろ。気ィ永くもてよ』
「そうですねィ、もう何年もヤローの背中追い掛けてんだ、今更でさァ」
帰ったら、あの仏頂面を捕まえて頬にキスしよう。
思いの分だけ殴った頬は、腫れあがっているはずだから、謝罪も込めて。
そして何度も伝えよう。
「・・・好きです」
内心で呟いたつもりが口に出て焦る。思わず周りを見渡した。幸い人は見当たらない。
自分が気持ち悪い。コレでは土方の周りに群がる女たちみだいではないか。
「もっとこう野郎の優位に立てるような方法を・・・」
軽い頭を働かせて作戦を練るが、浮かぶのは“恋愛は惚れたモンが負け”と勝ち誇ったように言う昔の土方さんの言葉だけ。
・・・負けたくねぇ。
自分の感情が恋だとか愛だとか、そういったことはわからない。
ただ胸を焦がす衝動に、翻弄されている。
考えることに夢中になっていて、背後に怪しい人影かあることに気付かなかった。
「ずいぶん不用心なことだなア、沖田総悟」
ゾッと背筋が凍るような気配がして、振り向く前に意識が墜ちる。
「・・・ぃかたさん」
最後の光が、閉ざされた。
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