突発連載

□罪人縋りし蜘蛛の糸
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 肺から空気が零れ落ち、ゴボゴボ気泡を立てる。
 軽い防刃繊維で編まれた隊服は、水を吸って身体に纏わり付く。

 思うように泳げない。

 出血の所為で手足が痺れたように重く、酸欠で眼が霞む。

 こぽ。

 肺から最後の空気が抜けて、海面へ昇っていく。

 水面は、俺の苦痛など知らぬように、綺麗だった。

 その水面から、遠慮もクソもないような力強い手が俺を掴んで引きずり出す。

「ほーい、多串君回収!」

「!!っがはッ!!」

 容赦なく甲板に叩き付けられて、身体に溜まっていた水を噴いた。
 塩に焼ける眼が、ぼんやりと銀を捉える。隣には黒と赤。

「なあ、コレって人工呼吸が必要なのか?俺、可愛い女以外パスなんだけど」

「しょうがないんじゃないですか?ちなみに僕のファーストキスはお通ちゃんですから!
 そこだけは譲れません」

「分かったネ!ココはワタシが一肌脱ぐアル!」

「神楽!!」「神楽ちゃん!?」

「テメーは一番やベーよ!ロリコンだろ!?犯罪じゃん!」

「幾ら土方さんでもそれは駄目ですよ!!だって、この人には沖田さんが・・アレ、ショタコン?」

「誰がワタシがする言ったネ!こんなマヨラー、定春で十分ヨ!」

「「ああ〜!!」」

「・・・・テメーら、人が死に掛けてるってのに何やってんだ・・・?」

 妙なコトをされる前に上体を起こし、あたりを見渡す。

「・・なんだこのボロ舟」

 周囲では見知った真選組の仲間が、必死にオールを漕いでいた。

 手漕ぎボートより少し大きな船の先端に近藤さんが立っている。

「右だ右!!あ、やっぱ左!」

 その視線の先には、先程の戦艦。

「っ!総悟はどうした!?」

「まだあの船の中です副長!!」

 床に散らばった隊服を回収していた山崎が応える。

「クソッ!!全速前進しろッ!!!」


「「「「「「「応っ!!!!!!!」」」」」」」」

 だが、幾ら根性を出したところで、人力がカラクリに勝てるはずがない。

 離れていく距離に唇を噛み締めると、やけに軽い調子の声が告げる。

「あー、もーそろそろ援軍がくっから」



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