突発連載
□罪人縋りし蜘蛛の糸
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もう随分と昔のことなのに、今でも鮮やかに刻まれた記憶がある。
『俺たちずっと一緒だろ、小太郎』
『ああ、約束する。晋助』
同じものを見て同じものを感じて育った。互いに真直ぐで意固地な性格は一緒で、反発しながらも半身が寄り添うように暮らしていた。
同じ理想を抱いていたはずのに、道を違えたのはきっと剣の折れたあの日。
昔誓った幼い約束が果敢無く崩れ落ちた、地獄のような戦場。
共に戦った仲間の屍の上で、あいつは片目から血の涙を流して叫んだ。
『憎むぞッ!先生を見殺しにしたあいつらを!扇動しておきながら俺たちを見捨てた幕府を!天人に媚びて誇りを失ったこの国を!
全部ぶっ壊してやらァ!』
『高杉ッ!待つんだ、高杉ッ!
そんな理由で剣を取ったんじゃないだろうッ!
この国を俺たちの手に取り戻すためだ!』
『現実をみろヅラァ!
皆死んだ!
正義や理想なんざ糞食らえッ!
すべてをぶっ壊す以外に何が出来る!?』
『分からんッ!だが、生き延びれば必ず希望は見つかるはずだッ!』
『希望なんて要らねェ!死んだ奴らが復讐を望んでやがるのに退けるか馬鹿ヅラァァァ!』
『憎しみで戦って何が救えると言うんだ貴様はッ!
戻ってこい晋助ッ!信念も理想もなく斬り続ければ、狂ったただの獣と同じだ』
『クッ、くはははははッ!
この状況で狂ってねぇとでもいうのかテメーは!?
上等じゃねぇか小太郎。
狂えよ、すべてぶっ壊してやらァ』
『晋助ーッ!』
強い潮風が回想と後悔を吹き散らす。
桂の長い黒髪が、ふわりと広がった。
船の先端から見下ろせば、青い海に浮かんだ船がある。
指先で摘んでいた薬草が風に乗り海原へと飛んでいく。
「こんなもので手に入れた心など、お前は満足できんだろうに・・・」
自分に似て潔癖な男に呟き、桂は最も近しく最も遠い最愛の戦友の前へと飛び降りた。
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