突発連載

□罪人縋りし蜘蛛の糸
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「近藤さん。
 俺はもう、あんたの隣に立つ資格が無いかもしれない」

 月の明るい夜。
 仕事に差し支えるからといつもは飲まない堅物に、珍しく酒に誘われて、屯所の縁側で二人、静かに飲んでいた。

 あまりにも切なげに月を見上げているものだから、戯れに好いた女でも出来たかと話を傾けてみれば、そんな甘いものじゃないという。

 聴いた内容より、心底弱ったようなその表情に驚いた。

 出会ったときから今の今まで、このクールな親友のそんな情けない顔を見たことがなかった。
 真っ直ぐな一振りの刀のように曇りない鋼の意思。
 それが、俺の知っている土方十四郎という男だった。
 
「どうしたんだトシ。お前がそんな弱気なこというなんて」

 柄にもなく、狼狽えてしまう。
 普段、色恋沙汰で弱気になったり泣いたりするのは俺の方で、親友は愚痴を聴き、慰める方だった。
 浮き世事に洒脱で、仕事以外を切り捨てていたこの男を心配すらしていたのに。

「・・・・総悟を壊しちまう。俺は、あいつを救えない」

 血を吐くような、己を責めるような声色。

 昨晩、大きな捕り物で総悟が初めて人を斬ったと知らされた。
 お上からの呼び出しで、俺はその現場に居なかった。
 城から屯所に帰ってきたときには、総悟は怪我もなく、安らかに眠っていて、その隣にトシが居たから安心していたのだが。

 それだけではない、何かがあったのだとトシの様子から察せられた。

「昨日、何があったんだ?」

 トシを真っすぐ見つめた。
 視線に耐えきれなくなったかのように、トシはうつむく。

「・・総悟が初めて人を斬って、キレた。その後、俺があいつを無理やり・・・・」

 言い淀むトシに、己が娘のごとく可愛がっている総悟の、中性的な顔立ちが浮かんだ。
 その辺の女よりよっぽど可憐な顔。

 ・・・。
 いや、まさか、トシに限ってそんなっ!

「抱いたのかっ?!」

 思わず身を乗り出して問い詰めると、端正な顔が歪む。

「違う。イかせただけだ。俺が知ってるのは、殺気や罪悪感を、快楽にすり替える方法だけだったからな」


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