その他

□いざや
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 しかし、しくじった。

 私の赤いしかめっ面を、榎木津はまるで獲物を見つけた猫のようにいやらしい眼で見つめる。

「お前等は学生時代から怪しいと踏んでいたが・・・やっぱりデキていたんだなっ!」

 トンデモ推理だ。妻の前で十数年も昔の事情を暴露されて私は泡を吹く。

 しかし。夫の関係を知ってしまった妻はというと。

「あら、まぁ。そうですの?」

 何故君が頬を染めるんだ雪江。

 この反応は榎木津も予想外だったらしく、一瞬頭を傾げた。

「よしッ!!今から京極のところへ行って、大いにあいつの趣味の悪さを貶してやろう!!」

「榎さんッ!それだけは勘弁してくれッ!!もしバレたとしったら、あいつは・・・」

「ん?なんだ猿ッ!あいつが元恋人現知人の君を殺すとでもいうのかねッ!」

 “元恋人”の処で盛大に吹き出した榎木津は、京極堂の陰険さを軽視している。

「・・・呪咀だ。あそこにいく度に、目の前で呪われる・・・」

 拝み屋だから、効果はきっと抜群だ。あの良く通る声で、あの鋭い眼光に射ぬかれ乍ら呪われれば数分も保たずに心臓が止まる。

 いや、怖い顔で「関口ッ!!」と怒鳴られるだけでショック死する。

 けれど何故だろう。
 君が本気で怒ったのではなく、それはどこか照れている気がする。
 私たちが戦争で否応なく引き裂かれ傷つけられる前の君が、一瞬頭を過ったのだ。




 嗚呼、あの部屋はいづこゑまいりましょう
 たつた二人
 青春時代を閉じ込めてしまつた、あの部屋は
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